鹿児島焼酎の店と知りつつも、日本酒が飲みたくなる酒器ありけり。【酒器も肴のうち】

お酒をつぐ器、お酒を飲む器。酒器に思いを巡らせると、気になってくるのが、あの人のお気に入りやコレクション。あのお店のセレクションも見てみたくなる。酒器を愛でて一献傾けるのが好きなライターによる酒器折々、酒器こもごも。

鹿児島焼酎の店と知りつつも、日本酒が飲みたくなる酒器ありけり。【酒器も肴のうち】
食楽web

 来たる10月1日は「日本酒の日」。日本酒が美味しい季節に「全国一斉日本酒で乾杯!」と銘打ったイベントがあちこちで開催される。さあ、どこで誰と乾杯しようかと考えながら、あまのじゃくは本格焼酎の店へゆくの巻。

『酒器も肴のうち』第15献は、鹿児島焼酎と九州のんまいもんが味わえ、中でも自家製スモークが絶品! の、三軒茶屋「糧」店主・山口浩範さんにご登場いただいた。

 扱う焼酎は70種以上。きびなごやからし蓮根、自家製さつまあげを肴に、うすはりタンブラーで供される焼酎をロックでやるのがお誂えだ。ここに来たら迷わず焼酎でしょと思われがちだが、ワイン、日本酒、梅酒なども柔軟にオンリスト。もちろん、焼酎ほどの品揃えではないにせよ、とりあえず置いていますよというワケではない。たとえば日本酒でいうと、逆に少ないからこそ厳選された5~6銘柄という具合。

 山口さんは鹿児島出身。愛飲のお酒はやはり焼酎だという。そりゃそうか。「仕事でもプライベートでも焼酎を飲むことの方が圧倒的に多いです。実は日本酒はあまりカラダに合わないと思っていて(笑)。日本酒を美味しく味わえるようになったのはここ数年。

 お店で扱う日本酒は数種類ですが、セレクトの基準は料理と一緒に楽しめる食中酒です。食事が止まってしまうような重すぎるものは置かないですね」

出ました! 日本酒ならでは「もっきり」スタイル。

 ここでようやく日本酒の酒器が登場! おお! グラスin the升。いわゆる「もっきり」スタイル。木製や塗り(時々プラ)の升はおなじみだが、陶製とは新鮮。

「この提供スタイルって酒処の風情がありますよね、日本酒ならではの。檜の升は香りがいいという方もいますが、好き嫌いがあるのでお店では陶製の升を使っています。本来、升もカップも陶製の“こぼし酒セット”として作られたものなんですが、クリアなグラスと合わせることが多いですね。作った妹には申し訳ないですけど(笑)」

 山口さんの妹の利枝さんは陶芸作家。現在は郷里・鹿児島で活動されている。酒器以外の器も素敵で、随分前になるが都内で利枝さんの個展があったときに筆者も染付けの蕎麦猪口をいくつか買い求めた。どれも水彩のような優しいにじみが味わい深く、ちょっと大きめなので我が家では小鉢や茶碗蒸しなどに使ったりする。

 お店には利枝さんだけでなくほかの作家さんの器も使われていて、その食器のセレクトは器店やギャラリーを経営する器の目利きのプロにも一目置かれている。そうそう、酒器だけでなく、肴になる器が豊富なお店なのだ。ところでこの”こぼし酒セット”を作った妹の利枝さん、やっぱりお酒好きなんですか?

「もれなく(笑)。ビール、ワイン、あとは焼酎が好きみたいです。各地で個展を開催していますが、数年前に秋田で個展があって、そこで美味しい日本酒をいただいて日本酒に目覚めたらしいです」と、山口さん。東北のお酒が日本酒を飲むきっかけになって、なんとも嬉しい東北生まれの筆者。銘柄が気になってくるが、脱線の素だ。そこはスルーで。

「妹いわく、学生の頃に居酒屋でバイトしてて、そこでは木製の升とグラスを合わせたスタイルで日本酒を提供していたみたいです。そのイメージを陶器に投影させたんだと思います。根っからの酒好きですよね。今は育児中で作陶も、そして大好きなお酒もお休みしているようです」

 あれま、それはそれは。とはいえ、お酒好きがつくる酒器。いいじゃないですか。目の前のこぼし酒セットの升をとっかえひっかえしながら、すでに酒好きで酒器好きの筆者のハートは釘付けだ。欲しい欲しいと地団駄踏んだところで持ち帰れるわけでもないのに、ああ、悩ましい。と思っていたら、なんと買えるそうだ。え、どこで買えるのかって? うーん、本当は教えたくないんだけどね。

【酒器FILE 011】 所有者:山口浩範(「糧」店主) *(升)口径64×64mm *高さ35mm *容量130cc *重量110g *(カップ)口径55mm *高さ75mm *容量100cc *重量124g
【酒器FILE 011】
所有者:山口浩範(「糧」店主)
*(升)口径64×64mm *高さ35mm *容量130cc *重量110g
*(カップ)口径55mm *高さ75mm *容量100cc *重量124g

●SHOP INFO

糧(かて) 店内
種類豊富でレアな焼酎も揃う鹿児島の郷土料理店だが、自家製スモークや有機野菜を使った一品など、手づくりにこだわった料理とお酒目当てで通う常客も多い。〆に鶏飯をかっこめば、あ、やっぱり九州の店だったかってことにはなるが(笑)。「食卓の上の幸福」をテーマにしたセレクトショップ「長」ではお店で人気の自家製スモークも販売。選りすぐりのご飯のお供や酒のアテも充実。「こぼし酒セット」はこちらで入手可能。

『糧(かて)』
住:東京都世田谷区三軒茶屋1-41-15-B1F
TEL:03-3795-4198
営:18:00~23:30(L.O22:30)
休:日曜
twitter@kate_sancha

『長(かぎりな)』
住:東京都世田谷区梅丘1-26-3
TEL:03-6413-0778
営:13:00~20:00(日曜~19:00)
http://www.kagirina.jp

●著者プロフィール

取材・文/笹森ゆうみ

ライター。蕎麦が好きで蕎麦屋に通っているうちに日本酒に目覚め、同時にそば猪口と酒器の魅力にとりつかれる。お酒、茶道、着物、手仕事、現代アートなど、趣味と暮らしに特化したコンテンツを得意とする。