魚料理の秘めたる可能性と共に見出した酒器選びの楽しさ。【酒器も肴のうち】

お酒をつぐ器、お酒を飲む器。酒器に思いを巡らせると、気になってくるあの人のお気に入りや、あのお店のセレクション。酒器を愛でながら一献傾けるのが好きなライターによる酒器折々、酒器こもごも。『酒器も肴のうち』第47献。

魚料理の秘めたる可能性と共に見出した酒器選びの楽しさ。【酒器も肴のうち】
食楽web

 今年6月で1周年を迎える「さかな庵 澪つくし」の料理長・平山貴之さんが自身のぐい飲みを手に入れたのはつい最近のこと。

 イタリア料理店でのキャリアが長く、1年前までは姉妹店である魚介専門イタリアン「ボガマリ・クチーナ・マリナーラ」で腕をふるっていた平山さん。全国から届く鮮度抜群の魚介を扱っているうちに、イタリアンの枠にとどまることなく、魚を主役にした料理をもっと自由に、もっと深く追求したいと思うようになったという。

「調理歴の大半がイタリアレストランで、日本酒を飲む機会が少なかったということもありますが、若い頃に飲んだ日本酒の印象を引きずっていて正直苦手でした。ただ、魚介料理を突き詰めていくと改めて日本酒の美味しさに気づかされることも多くて、めちゃめちゃ美味い! と思ったんです」(平山さん・以下同)

 お店の酒器のセレクトは店長に任せているそうだが、今まで縁遠かった日本酒、そして酒器を意識するようになり、自分用のぐい飲みを買い求めるに至ったという。

「ワイングラスとはまた違って、日本酒のための酒器を選ぶというのは新鮮で楽しかったです。これは完全に見た目が自分の趣味!」

「ガラスや陶器など、お店にある酒器をひと通り見ました。錫の酒器もいろんなデザインのものをチェックしましたが、最初から第一印象で決めてました!(笑)という感じです。薄くて飲み口が緩やかに広がったフォルムが手にしっくりなじむのと、お店のスタッフから改めて錫の魅力などを聞き、それが後押しというか決定打になりました」

 平山さんの楽しげな酒器選びの様子を聞きながら、お店で使っている酒器も拝見させていただくことに。

「日本酒は片口で提供しています。片口からお酒を注ぐ風情がいいのと、ころんとしたフォルムが可愛いといって店長が選んだものです。それでもって平盃で味わっていただいたり、ぐい飲みだったり、夏はガラスの酒器だったりといろいろです」

 日本酒を楽しませてくれる酒器が揃うお店で扱っているお酒のラインアップについては実際来店して聞いてもらうとして、お品書きの中に“貝の田酒蒸し”を発見。田酒は平山さんの出身である青森を代表する人気の地酒。「季節の貝の酒蒸しなんですが、最後の香りづけに田酒を使っています」。ゆかりのある銘酒をさりげなく料理に登場させていたとは一本取られた気分である。

●INFORMATION

さかな庵 澪つくし

さかな庵 澪つくし

昨年6月オープン。日本全国津々浦々の魚介を使ったこだわりの「さかな料理屋」。姉妹店の北参道「ボガマリ・クチーナ・マリナーラ」同様、ショーケースには鮮度抜群の食材が並び、店内の一角は鮮魚店の佇まい。お好みの食材を選び、お好みの調理法でオーダーできるボガマリスタイルがここでも楽しめる。日本酒は常時10銘柄ほど。ワインも豊富に揃う。※5月18日より「ボガマリ 渋二」としてリニューアル

●DATA

住:東京都渋谷区渋谷2-10-6 山田青山ビル1F
営:11:30~14:00(L.O.13:30)
  17:30~24:00(L.O.22:00)
休:日曜
TEL:03-6427-1205

●著者プロフィール

取材・文/笹森ゆうみ

ライター。蕎麦が好きで蕎麦屋に通っているうちに日本酒に目覚め、同時にそば猪口と酒器の魅力にとりつかれる。お酒、茶道、着物、手仕事、現代アートなど、趣味と暮らしに特化したコンテンツを得意とする。