アグロ・タケシ農園の豆のみを堪能する、コアなイベントに行ってみた【前編】|【コーヒープレス古今東西】

挽いた豆にお湯を注ぎ、時間が来たらレバーを押し下げる。そんな簡単ステップで珈琲豆の味わいが堪能できるコーヒープレス。家事の合間に、仕事の休憩に。初心者からプロまで使えるうえに、手間いらずで実用的。なのになぜか、知名度は今ひとつ。使えばきっと好きになる、愛すべきコーヒープレスの魅力をご紹介します。

アグロ・タケシ農園の豆のみを堪能する、コアなイベントに行ってみた【前編】|【コーヒープレス古今東西】
食楽web

 さて、コーヒープレスと相性がいいとされるスペシャルティコーヒーについて、豆の品種だけでなく、ワインのように生産者や農園という目線からコーヒーの味の違いを楽しめる、と何度か触れてきた。コーヒー豆も農作物なのだから、作り手の姿勢や取り組みが味に影響する、というのは分かりやすい話である。しかし、見聞きした農園の情報をもとに「なるほど、だからこういう味になるのね」と腑に落ちるまでは、いろいろな豆を味わって経験値を増やさないといけないだろうし、そもそも農園に関する情報を知る必要だってある。

 おいしく飲めればなんだっていい、という大らかな考え方も正解だと思うが、どうせなら背景のことも知りたいなあ、と思うのは性分なのだろう。そんなことを思っていた矢先、先日カッピングセミナーでお世話になった『丸山珈琲』の広報の方よりこんなメールが届いた。

「ボリビアにイトゥラルデさんという方が運営する『アグロ・タケシ』という農園があります。この農園は世界一高い標高でコーヒーを栽培していて、毎年たいへん品質の高い豆を作ることから、世界的にも高く評価されています。今年もその『アグロ・タケシ』から、様々な品種のコーヒーが届きまして、その魅力を体験していただける一夜限りのイベントが開催されます。同じ農園の複数の品種を、さまざまな抽出で味わっていただくマニアックな内容ですが、もしご興味がございましたら……(以下略)」

 すんごい面白そうである。聞けば、代表でバイヤーの丸山健太郎さんによる農園での買い付けの様子を伝えるプレゼンテーションもあるとのこと。同じ農園のいろいろな豆を、抽出法を変えて味わうなんて、家庭ではまずできない。こんなレアな機会をひとりで楽しむにはもったいない、と食楽Web編集長のTさんにも声をかけたところ、ふたつ返事で一緒に来てくださった。

 開催場所は『丸山珈琲 西麻布店』。すでに香ばしい豆の匂いが立ちこめている店内には、イベントの開場と同時に続々と人が集まってきた。我々も手荷物を預けて両手をあけ、万全の試飲体制に。

訪れていたのは30~40代くらいの男女が中心。コーヒー愛好家はもちろんのこと、カフェなどの経営者であろうか、熱心にメモを取りながらイベントに臨む人の姿もあった。
訪れていたのは30~40代くらいの男女が中心。コーヒー愛好家はもちろんのこと、カフェなどの経営者であろうか、熱心にメモを取りながらイベントに臨む人の姿もあった。
本日提供されるコーヒー豆のひとつ『イトゥラルデ カトゥアイ ピーベリー』。『アグロ・タケシ』農園の運営の中心であるイトゥラルデさん親子の名前が、品名の冒頭に付けられている。
本日提供されるコーヒー豆のひとつ『イトゥラルデ カトゥアイ ピーベリー』。『アグロ・タケシ』農園の運営の中心であるイトゥラルデさん親子の名前が、品名の冒頭に付けられている。

 開始時間とほぼ同時に、丸山健太郎バイヤーが登壇した。楽しみにしていた農園の話だが、専門的すぎてコーヒー素人には難しい話だったら……という不安も正直あった。が、それはまったくの取り越し苦労だった。

 ボリビアの首都ラパスの様子にはじまり、『アグロ・タケシ』農園が標高1750~2600メートルというコーヒー農園としては世界有数の高地にあること、道のりの途中には「デスロード(死の道)」と言われるほど険しい断崖絶壁があること、タケシという親近感の湧く名前はインカ時代からある小道の名前に由来している事実……。まるで旅行記や冒険譚を聞いているかのような心躍る話に、あっという間に引きこまれる。

バイヤーの丸山健太郎さん。身振り手振りを交えながら、エネルギッシュに農園の様子を伝えてくれた。
バイヤーの丸山健太郎さん。身振り手振りを交えながら、エネルギッシュに農園の様子を伝えてくれた。

 話は次第に、核心である農園の個性の話に向いてゆく。本来コーヒーには一定の収穫シーズンがあるが、標高の高い『アグロ・タケシ』農園は常に雲や霧に包まれているせいか、花が咲く時期が木のある場所によってまちまち、という非常にユニークな実の付き方をするそう。なんとも神秘的だ。

 このような個性的かつ評価の高い農園があるくらいだから、ボリビアではコーヒー栽培がさかんなのだろうと思っていたが、最近は畑の面積が同じでも約4倍の収入を得られるコカの葉を作る農家が増えて、コーヒー農家は減少しているのだそう。そんな状況下で、ボリビア産のコーヒーに対し信念を持って生産を続けているのが、ボリビアの名士でもある農園のオーナー、カルロス・イトゥラルデ氏であるというのだ。

 こうして農園の様子の写真を交えながらのお話の後は、いよいよ『アグロ・タケシ農園』から届いたさまざまな品種の豆を飲み比べる時間。豆の背景にあるストーリーを聞くと期待もさらに高まる。テーブル上にコーヒープレスがずらりと並べられ、いよいよ試飲タイムが始まった。

アグロ・タケシ農園の豆のみを堪能する、コアなイベントに行ってみた【前編】|【コーヒープレス古今東西】
入荷した全8種を豆の個性が際立つコーヒープレスで抽出し、一つひとつ飲み比べてゆく。
入荷した全8種を豆の個性が際立つコーヒープレスで抽出し、一つひとつ飲み比べてゆく。がんばれ、コーヒープレス!

(次回に続く)

●著者プロフィール

写真・文/木内アキ

北海道出身、東京在住。”オンナが楽しく暮らすこと”をテーマに、雑紙や書籍、ウェブなどで人・旅・暮らしにフォーカスした文章を執筆。プレスコーヒー歴7年。目標は「きちんとした自由人」。執筆活動の傍ら、夫と共に少数民族の手仕事雑貨を扱うアトリエショップ『ノマディックラフト』を運営中。
HP: http://take-root.jp/