アグロ・タケシ農園の豆のみを堪能する、コアなイベントに行ってみた【後編】|【コーヒープレス古今東西】

挽いた豆にお湯を注ぎ、時間が来たらレバーを押し下げる。そんな簡単ステップで珈琲豆の味わいが堪能できるコーヒープレス。家事の合間に、仕事の休憩に。初心者からプロまで使えるうえに、手間いらずで実用的。なのになぜか、知名度は今ひとつ。使えばきっと好きになる、愛すべきコーヒープレスの魅力をご紹介します。

アグロ・タケシ農園の豆のみを堪能する、コアなイベントに行ってみた【後編】|【コーヒープレス古今東西】
食楽web

 前回に続き、ボリビア『アグロ・タケシ農園』のコーヒー豆だけを集め、さまざまな抽出法で飲んでみる、という『丸山珈琲』主催のイベント参加レポート。後半は待望の試飲タイムに入る。テーブル上にずらりと並んだコーヒープレスの中には、今季農園から届いた8種の豆が。まずはこれらを一つひとつ飲み比べてみることからスタート。

アグロ・タケシ農園の豆のみを堪能する、コアなイベントに行ってみた【後編】|【コーヒープレス古今東西】
注いでくれたのは、2006年ジャパンバリスタチャンピオンシップ第3位の関口学バリスタ。コーヒープレスの前には、豆の名前と味の特徴が書かれたシートが。
注いでくれたのは、2006年ジャパンバリスタチャンピオンシップ第3位の関口学バリスタ。コーヒープレスの前には、豆の名前と味の特徴が書かれたシートが。

 今回のラインナップでは、ティピカ種、カトゥアイ種、ジャバ種など豆の品種による違いだけではない。コーヒー豆には本来、コーヒーチェリーの中にふたつの種が向き合って入っているものだが、稀にひとつしか入っていないものがある。それが「ピーベリー」と呼ばれる、小粒で丸い形をしたコーヒー豆。『アグロ・タケシ農園』ではピーベリーを分けて収穫しているため「ティピカ種」と「ティピカ種のピーベリー」をも今回飲み比べることができる。また最近、人気上昇中のゲイシャ種については、スクリーンサイズと呼ばれる豆の大きさによって3種に細かく分けられていた。

 小ぶりのカップに一種類ずつ注いでもらい、飲み比べていくのだが、最初のひと口を飲んだ食楽webのT編集長と私は思わず「……おいしい……」と顔を見合わせる。品種による味の違いも面白いが、フラットビーン(通常の豆)とピーベリーでは同品種でも全然個性が違う。8種類も飲んだら飽きそうなものだが、これがまた、次の味を飲むのが楽しみでしょうがない。

 興奮冷めやらぬまま、次に向かったのはサイフォン抽出のコーナー。先ほどコーヒープレスで飲んだ豆の中からセレクトした「カトゥアイ種」「カトゥアイ種ピーベリー」の2種を、サイフォンで淹れてもらえる。

サイフォン抽出の担当は、今年のジャパンサイフォニストチャンピオンシップで優勝した、トップサイフォニスト・矢橋伊織さん。
サイフォン抽出の担当は、今年のジャパンサイフォニストチャンピオンシップで優勝した、トップサイフォニスト・矢橋伊織さん。

 「サイフォンで淹れると温度が高いのですが、冷めていく過程で香りと味が広がりますのでゆっくりとお楽しみください」と矢橋さん。ふたりソファに腰を落ち着けて、指南どおり時間をかけて味わう。先ほどプレスで飲んだときよりも、サイフォン抽出はさらにクリアな味わいだ。

「いやあ、サイフォンもおいしいですね」「ホントおいしいです」

 カップは小さめとは言え、このときすでに十杯目。それでも一つひとつ、花のような香りがしたり、口当たりが柔らかだったり、酸味があったり。ひとつの農園の中で広がる豊かな個性を前に、我々は壊れたオモチャのように「おいしい」を繰り返すのみ。なんて幸せな時間なのだ。

 最後はアレンジ的な感覚で、エスプレッソやカプチーノ、アイスカフェラテ、アメリカーノがいただけるコーナーへ。こちらを担当しているのは、カッピングセミナーでお世話になったバリスタの櫛浜健治さん。

カッピングを指導してくださった櫛浜さんに、エスプレッソを淹れていただく。
カッピングを指導してくださった櫛浜さんに、エスプレッソを淹れていただく。

さすがに、ここでも全種類は飲めないと判断。編集長がカプチーノ、私はエスプレッソを注文し、女子高生のように一口ずつお互いの頼んだものを味見させてもらうことにした。

編集長オーダーのカプチーノ。ふっくらと美しいラテアートにうっとり…。
編集長オーダーのカプチーノ。ふっくらと美しいラテアートにうっとり…。

 直球のコーヒーをいただき続けてきたせいか、カプチーノのほろ苦くもまろやかな風味が新鮮に染みわたる。一方、エスプレッソは砂糖をしっかり入れたというのにどっしりとストロング。「これはほとんど酒だなあ」と編集長。「コーヒー界のブランデーですね」と私。

全身の細胞が覚醒するかのような、濃厚エスプレッソをクイッと。
全身の細胞が覚醒するかのような、濃厚エスプレッソをクイッと。

 約2時間ほどの滞在で、飲んだ約12種類。この濃厚なひとときを共有してくれたT編集長に感想を聞いてみた。

「ふだんはなかなか会えないバイヤーさんから、直接買い付けの話が聞けたことがすごく面白かったですね。豆のサイズの違いで3種類に分けられていたゲイシャ種があったでしょう。実際に飲んでみて『豆の大きさだけでもこれだけの味の幅が出るのか!』というのは正直びっくりで」

試飲する編集長(右)。一二杯ものコーヒーを共にすると、まさに戦友のような心持ち。
試飲する編集長(右)。12杯ものコーヒーを共にすると、まさに戦友のような心持ち。

「あとは座学で堅苦しく勉強するんじゃなく、プロの話を聞いた後に実際に飲んでみる、というのがよかったですよね。“サイフォンで淹れたコーヒーは、冷めると香りが開く”とか、プロに聞いたいろいろな話を、次にどこかで『実はこうらしいよ』ってうんちく話ができるっていうのも、コーヒーのひとつの楽しみかもしれない」

 全く同感である。飲んでも飲んでも知らないことばかりだが、それでもなおコーヒーへの興味は尽きない。「この前ボリビアの農園のコーヒーを飲んでさ」なんて、近々誰かをつかまえて話すのが楽しみである。

●著者プロフィール

写真・文/木内アキ

北海道出身、東京在住。”オンナが楽しく暮らすこと”をテーマに、雑紙や書籍、ウェブなどで人・旅・暮らしにフォーカスした文章を執筆。プレスコーヒー歴7年。目標は「きちんとした自由人」。執筆活動の傍ら、夫と共に少数民族の手仕事雑貨を扱うアトリエショップ『ノマディックラフト』を運営中。
HP: http://take-root.jp/