06話【コーヒープレス古今東西】サードウェーブを自宅でとことん楽しむならば【2】

06話【コーヒープレス古今東西】サードウェーブを自宅でとことん楽しむならば【2】
食楽web

挽いた豆にお湯を注ぎ、時間が来たらレバーを押し下げる。そんな簡単ステップで珈琲豆の味わいが堪能できるコーヒープレス。家事の合間に、仕事の休憩に。初心者からプロまで使えるうえに、手間いらずで実用的。なのになぜか、知名度は今ひとつ。使えばきっと好きになる、愛すべきコーヒープレスの魅力をご紹介します。

 さて前回は、すっかり浸透したサードウェーブの潮流である、「豆の個性を重んじる考え方」とコーヒープレスは相性がいい、と書いた。

 しかし、まだまだ日本ではドリップ式や電動のコーヒーメーカーが主流。電動はセットするだけ、という手軽さからニーズがあるのはよく分かる。でもそれならなぜ、手軽に使えるコーヒープレスが広まらないんだろうか。コーヒー関連の取材に行く度、いろんな識者にそんな疑問を投げかけてみた。すると数人から同じような言葉を耳にした。

「もともと日本では、紅茶を淹れる器具としてフレンチプレスが広まったようなので、みんな紅茶のイメージで捉えているのではないでしょうか」

 なるほど。言われてみればたしかに、自宅に来客が来たとき、プレスでコーヒーを出すと「紅茶を淹れるものじゃないんですね」と何度言われたことか。コーヒーは油分を含んでいるため、紅茶で使用しているプレスをコーヒーに使い回すのは難しいし、もし紅茶用と思われているなら、味の面でも器具の掃除の面でも「コーヒーの道具は別」というイメージになってしまうのかもしれない。

 また、こんな説も聞いた。

「昔、コーヒーが日本に入ってきたばかりの時は、今よりもずっと豆の状態が悪くて雑味が多かったらしいんです。それをできるだけ美味しく飲むために、雑味を取り除く力に優れているドリップ式が広く使われ、一般に浸透するようになった……と聞いたことがあります」。

 歴史と文化は密接な関係だというけれど、もしこれらの話が事実だったとしたら、日本のコーヒーの歩みの中に、プレス式が食い込み切れていないのも「そうか」という感じだ。もっと調べてみなければ。なにしろ、豆を重んじる時代が来た今、ようやくプレス式の魅力が花開くところなのかも。そんなことを思いながら、コーヒープレスで淹れたコーヒーをごくりと飲んだ。

●著者プロフィール

写真・文/木内アキ

北海道出身、東京在住。”オンナが楽しく暮らすこと”をテーマに、雑紙や書籍、ウェブなどで人・旅・暮らしにフォーカスした文章を執筆。プレスコーヒー歴7年。目標は「きちんとした自由人」。執筆活動の傍ら、夫と共に少数民族の手仕事雑貨を扱うアトリエショップ『ノマディックラフト』を運営中。
HP: http://take-root.jp/