シンプルながら力強い。円熟が故の技を楽しみたい

深夜の名店が、思いのほか不毛な渋谷界隈。「特に渋二と呼ばれているこの界隈は少ないんですよ」との声の主は、室田拓人さん。青学西門通りに面して佇む、ジビエ料理で定評あるフランス料理店『ラチュレ』のオーナーシェフです。
お客が引けた後、後片付けをすませたら、店を出るのは早くても24時。その時間でも、満足のいく料理を食べさせてくれる数少ない一軒が、同じビルの二階にある『オステリア ヴィネリア ラ・コッポラ』だそうです。どちらも開店した時期がちょうど同じ頃だそうで、 オープン当初から気になって、時おり訪れているとか。
「何といっても、店からゼロ分ですから(笑)」(室田さん)
ともすれば、複雑な構成になりがちなフランス料理に対して、素直に美味しい料理が多いところも気に入っているそうで「シンプルなお皿って、実はとても難しいと思うんです。この店の筒井力丸シェフは大ベテラン。学ぶことは多いですね」。いつもはスタッフと一緒だという室田シェフ。メニューは、前菜の盛り合わせなど、筒井シェフにおまかせしているそうですが、 絶対に外せない一品、それが「サルディーニャ産カラスミの冷製フェデリーニ」です。

室田シェフによれば、「いつ食べても、変わらずに美味しい。もう、毎日でも食べたいぐらい好きですね。トッピングの生しらすとカラスミとの組み合わせも絶妙なんです」と大絶賛。
あまりに好きすぎて、自分の店でも、千切りにしたアオリイカをパスタに見立ててカラスミと和え、コースのアミューズとして出したこともあったそう。まるでマヨネーズで和えているかのようにクリーミーなパスタの口当たりが旨さの秘訣ですが、それも、カラスミとオリーブオイル、そして少々の茹で汁をしっかりと混ぜ合わせ、乳化させていればこそ。シェフの技が光る逸品です。
また、ここで食べる「和牛肩三角の稲わら蒸し焼き」も室田さんの好物の1つ。

一度フライパンで軽く焼き目をつけた後、藁で包んでココットに入れ、蒸し焼きにした和牛肉は、肉汁のジューシーさに加え、藁独特の薫香が食欲を刺激します。
「自分の店では、鹿とか熊とか猪とか。いつもジビエでしょう。牛肉は、ほとんど口にしないので、こういうところで食べる牛肉って、とても新鮮なんです。一般の方が、ジビエを食べる時みたいな感覚とでも言えばいいのかな」。そう言いつつ、顔をほころばせて牛肉を頬張る室田シェフ。

ワインはグラス一杯くらいを嗜む程度だそうですが、ここはヴィネリア。イタリアワインは、リスト以外に全州を揃えているなど品揃えはさすがのひと言です。
(文◎森脇慶子 撮影◎鈴木拓也)
●SHOP INFO

店名:オステリア ヴィネリア ラ・コッポラ
住:東京都渋谷区渋谷2-2-2 青山ルカビル 2F
TEL:03-6805-1551
営:18:00~翌2:00(L.O.翌1:00)
休:日曜 ※月曜が祝日の場合休み
●プロフィール
紹介人/室田拓人
調理師学校を卒業後、『タテル・ヨシノ』等で修業。渋谷『deco』の料理長を経て2006年『ラチュレ』をオープン。2009年に狩猟免許を獲得。自ら獲ったジビエを店で提供。
※当記事は『食楽』2019年秋号の記事を再構成したものです