秋田名物大館曲げわっぱのぐい呑で差しつ差されつ、仲睦まじい夫婦の晩酌時間。【酒器も肴のうち】

お酒をつぐ器、お酒を飲む器。酒器に思いを巡らせると、気になってくるあの人のお気に入りや、あのお店のセレクション。酒器を愛でながら一献傾けるのが好きなライターによる酒器折々、酒器こもごも。

秋田名物大館曲げわっぱのぐい呑で差しつ差されつ、仲睦まじい夫婦の晩酌時間。【酒器も肴のうち】
食楽web

『酒器も肴のうち』第41献は木目が美しい大館曲げわっぱの酒器セット。曲げわっぱといえば、秋田音頭を口ずさめる方ならばご存知かと思うが「秋田名物八森ハタハタ、男鹿で男鹿ブリコ、能代春慶、桧山納豆、大館曲げわっぱ」に登場するそれだ。

 古くから秋田・大館に伝わる曲げわっぱは、天然秋田杉の薄板を曲げて仕立て上げた伝統工芸品。そういえば、大館曲げわっぱの弁当箱を愛用している友人がいる。夏は保冷、冬は保温効果に長け、朝握ったおにぎりがお昼でも美味しくいただけるのだと熱く語られて、思わず入手しそうになった。しばらく悩んだがお勤めでもないし、頻度を冷静に考えて結局買うのをやめたのだった。

 さて、こちらの酒器セットの持ち主は渋谷「さかな庵 澪つくし」店長の布上智範さん。長きにわたり人気イタリアレストランのサービスに従事し、現在は同系列で初めての和食店の立ち上げから携わる。

 イタリアンから和の世界へとなると、単純にワインから日本酒のイメージだが、そこは柔軟だ。お店で提供するお酒や扱う酒器についてはいずれご紹介したい。

「ワインが好きなのと、仕事柄ワインを提供することがほとんどだったということもあって、自宅で飲むのは8割、9割がたワインです。日本酒や焼酎はいただきものをたまに。ただ、和食店を始めるにあたっては、改めて日本酒から学ぶことはたくさんありました」(布上さん・以下同)

 開店前にいくつかの酒蔵を訪ねたり、ワインとは違った日本酒ならではのサービスのノウハウを識者から聞く機会にも恵まれたという。ただ美味しい美味しいと飲むだけの筆者も間接的だが学ぶことがたくさんあったのだが、ともあれ酒器である。

「曲げわっぱの酒器セットは結婚祝いにいただいたもの。それまでは日本酒のための特別な酒器は持っていなくて、グラッパ用の小さなグラスを代用したりしていました。この酒器は天然杉の清々しい香りがあって、お酒を注いで飲んでみると樽酒というか、どちらかというと甘いリキュールに近いニュアンスを感じます。本来のお酒の味ではなく杉の香りが移り、もはや別な味になる。香りを楽しませ、華やかな気分にさせる杉という素材の特徴が秀でた独特の酒器ですよね」

 記念日にはゆかりのあるイタリアレストランで過ごすことが多かったという布上さん夫婦。てっきりワイン一辺倒と思っていたら、聞けばどうやらそんなこともないようだ。

「出会って最初のクリスマスはイタリアンでもほかの洋食でもなく、ふたりでクエ鍋を食べに行きました。となるとやっぱり日本酒ですよね。おでん屋さんや日本酒バーにも行っていましたね。

 考えてみれば自宅ではあまり日本酒を飲まないけれど、外食のときは基本的に料理に合わせるので、和食のときは日本酒や焼酎になりますね。ただ、飲み進めるペースが早いんです。で、ペース配分を間違えることが多くて(苦笑)、潰れます」

 それを隣りで聞いていた奥さまの方がよほど苦笑いしていたように見えたが、なんにせよ、ご夫婦で一献傾ける時間にふさわしい酒器セットがあるのはなんだか素敵だ。杉の香りがふわりとたちこめる曲げわっぱのぐい呑は奥さまのお気に入りだそう。

 曲げわっぱの酒器セットのほかに、プレゼントでいただいた酒器セットがまだあるという。酒器のおかわりは次回に続く。

●INFORMATION

さかな庵 澪つくし

さかな庵 澪つくし

昨年6月オープン。日本全国津々浦々の魚介を使ったこだわりの「さかな料理屋」。姉妹店の北参道「ボガマリ・クチーナ・マリナーラ」同様、ショーケースには鮮度抜群の食材が並び、店内の一角は鮮魚店の佇まい。お好みの食材を選び、お好みの調理法でオーダーできるボガマリスタイルがここでも楽しめる。日本酒は常時10銘柄ほど。ワインも豊富に揃う。

●DATA

住:東京都渋谷区渋谷2-10-6 山田青山ビル1F
営:11:30~14:00(L.O.13:30)
  17:30~24:00(L.O.22:00)
休:日曜
TEL:03-6427-1205

●著者プロフィール

取材・文/笹森ゆうみ

ライター。蕎麦が好きで蕎麦屋に通っているうちに日本酒に目覚め、同時にそば猪口と酒器の魅力にとりつかれる。お酒、茶道、着物、手仕事、現代アートなど、趣味と暮らしに特化したコンテンツを得意とする。