幻の天然スイーツ「ミツツボアリ」をオーストラリアまで食べに行ってきた【実食レポ】

ミツツボアリは旨いのか?

オーストラリアのカルグーリー・ボルダー空港へ降り立つ。蛍光の入ったHi-visという作業着を着た鉱山労働者が多く乗っていました
オーストラリアのカルグーリー・ボルダー空港へ降り立つ。蛍光の入ったHi-visという作業着を着た鉱山労働者が多く乗っていました

 そうしてたどり着いたのが、西オーストラリア州にある鉱山街。金や銅、リチウムが採掘できる鉱山の街だけあり、空港はHi-Visという蛍光色の入った作業着を着た労働者で溢れています。もし一人で訪れていたとしたら、「ここでミツツボアリ……?」と一抹の不安がよぎったかもしれません。

 しかし今回はアボリジニのガイドさんが、ミツツボアリが採集できる場所まで案内してくれるので、大船に乗った気持ちでOKです。乾燥地帯の道路をクルマで突っ走り、採集ポイントへ向かいます。

乾燥地帯をひたすら走ります。道中には鉱山がちらほら
乾燥地帯をひたすら走ります。道中には鉱山がちらほら

 お目当ての場所に到着し、現地の植物やアボリジニの食文化を教えていただいた後、いよいよ、念願のミツツボアリ探しに突入です。ミツツボアリはムルガという木の周辺に巣をつくるので、ムルガの根本にアリの巣がないかを根気よく探していきます。

鉱山街カルグーリーの地名の由来となった植物のガルグリ。とても苦くてまずい
鉱山街カルグーリーの地名の由来となった植物のガルグリ。とても苦くてまずい

 ところが、それなりに昆虫の知識がある筆者でも、巣の特徴が全くわからない! それらしき巣は、どれもこれも別のアリの巣。ミツツボアリの巣ってどれ?? 結局、見つけ出したのは熟練のガイドさん。これでようやく、地中のミツツボアリを掘り出す作業に入ることができました。

ミツツボアリが好むムルガという植物。この植物の周辺を探すとミツツボアリが見つかるとのこと
ミツツボアリが好むムルガという植物。この植物の周辺を探すとミツツボアリが見つかるとのこと

 木の根元を丁寧に掘ること15分、はじめに姿を現したのは、日本でもおなじみのセミの幼虫。普段なら喜んで集める筆者ですが、今回のターゲットではないので、後ろ髪を引かれながらもさようなら……。時折、出てくるセミをどけながら、さらに掘り進めていきます。

 さらに掘ること15分。ついに、お腹の黄色と黒色の模様が特徴的なアリを発見ーー!! これこれ、これぞミツツボアリ(の働きアリ)ですよ! 働きアリがいるということは、その周辺の地中のどこかに、蜜を貯めたタンク役のアリがいるはずなんです。

ミツツボアリの働きアリ。お腹に黄色と黒の縞模様があります
ミツツボアリの働きアリ。お腹に黄色と黒の縞模様があります

 めげずに掘り進めること10分ほど、ついに地中から、夢のミツツボアリ(タンク役)が! ようやく幻の味を……と感動していると、アボリジニのガイドさんがパクリと食べてしまいました。やや蜜部分がつぶれてしまっていたので、自分のお腹に処理してしまったようです。お~い、僕にも食べさせてくれえぇぇぇ!

 でも、巣にはまだまだ、たくさんのミツツボアリがいるはず。がんばろう。ミツツボアリを潰さないようにと気を配りながら掘り進めていくと、ついにお腹に蜜をたっぷり貯めたミツツボアリと出会うことができました。

蜜を貯蔵するタンク役のミツツボアリ。甘い!
蜜を貯蔵するタンク役のミツツボアリ。甘い!

 つぶしてしまわぬように指先でそーっとつまみ、口へ運び静かに舌と上顎でつぶしてみる。すると、蜜の芳醇な甘さが口に広がります。

 前述の通り、アリといえば、「蟻酸(ギ酸)」という酸っぱい成分が特徴。そう、アリは食べるとだいたい酸っぱいのです。なので、蜜と蟻酸の甘酸っぱいハーモニーを期待していたのですが、ミツツボアリの場合どうやら酸味はなく、甘さだけを堪能できるアリのよう。

 掘り出されたタンク役のアリをいくつか並べて見てみると、色が少し違うことがわかります。白っぽいものと、茶色っぽいもの。ガイドさん曰く「茶色い方がより甘く、メープルシロップのようだ」とのこと。

 ということは、逆に言えば白い方は甘くないのか? 実際に白いアリを食べてみると、なんと甘みの中に酸味が口の中を通り抜けるではありませんか。ミツツボアリは、ハズレとされる酸っぱい個体がいるようです。数十匹を食べてみたところ、茶色い個体はすべて甘く、白い個体の中には何匹か酸味を持つアリがいることが確認できました。

ミツツボアリ 色が少しずつ違う。酸っぱいハズレアリは白いものに多い
ミツツボアリ 色が少しずつ違う。酸っぱいハズレアリは白いものに多い

 土の中のミツツボアリの姿を見てみると。巣穴の中に、タンク役のミツツボアリがコロコロと何匹かまとめて入っているのがわかります。

 お腹を下にして身動きを取ることができないまま、ぶら下がり、一生をタンク役として役目を終えます。これが乾燥地帯の、貴重なおやつ。アボリジニの間に、代々受け継がれている食文化なのです。

土の中のタンク役のミツツボアリ。右上のアリは衝撃で破裂してしまったもの
土の中のタンク役のミツツボアリ。右上のアリは衝撃で破裂してしまったもの

 この後、ガイドさんがミツツボアリのケースをプレゼントしてくれました。なんとガイドの息子さんが、3Dプリンタで「ミツツボアリ専用ケース」を作ったというのです。まさに伝統と最新技術の組み合わせ!

3Dプリンタ製のミツツボアリケース。ミツツボアリの貯蔵タンクがつぶれないよう、サイズも計算されている
3Dプリンタ製のミツツボアリケース。ミツツボアリの貯蔵タンクがつぶれないよう、サイズも計算されている

 このケースのおかげで、ホテルにミツツボアリを持ち帰ることができ、紅茶に入れてミツツボアリティーを堪能できたのでした。

 ちなみに後日、筆者のX(twitter)にてこのミツツボアリの投稿をしたところ、予想外に拡散されて、170万回も表示されたのも驚きでした。「食べてみたい」と言う人や、小さい頃にアリを食べた体験を思い出す人、ゲームの敵キャラクターを思い出す人などなど、多種多様な反応が寄せられ、非常に楽しかったです。

ミツツボアリのX(旧twitter)の投稿。170万回表示された
ミツツボアリのX(旧twitter)の投稿。170万回表示された

 今年2月には昆虫食、特に食用コオロギへの反対の投稿が相次ぎ、筆者が関わったYahoo記事には4000件もの批判コメントが寄せられたのですが、ミツツボアリに対する反応は、同じ昆虫とは思えないほど好意的なものが多かったのが面白いですね。

 昆虫食への嫌悪感をものともしない、魅惑的な甘い蜜を持つミツツボアリ、南半球まで食べにいく価値は確かにあったと言えるでしょう。

●著者プロフィール

吉田誠
NPO法人食用昆虫科学研究会理事。 キノコ狩り、釣り、ダイビング、水族館巡り、ガジェット収集とかいろいろやってます。東京都ふぐ取扱責任者免許を取り、さらなる趣味の世界を広げ中。