「安い、旨い、早い」三拍子揃った名物チャーハンの味は?

『兆楽』には、平日の昼間だというのに行列ができていました。中を覗くと、老若男女、幅広い年齢層のお客さんで満席状態。しかし、回転は早く、次々と人が出てきます。我々も早々にカウンターに案内されました。
壁に貼ってあるメニューによれば、「定食」、「麺類」、「チャーハン」と大まかに3つにジャンル分けされており、それぞれの種類がものすごく多いです。ちなみにチャーハンだけで10種類もある…!
今回のお目当ての「ルースチャーハン」も「豚しゃぶチャーハン」も850円です。一般的な町中華のチャーハンは700円前後。若干お高い気もしますが、 “チャーハン+おかず”と思えば意外と安いですよね。というわけで、我々はその2品を食べてみることにしました。

そういえば、オズワルドの伊藤さんは『兆楽』のチャーハンの提供時間が早さを挙げていました。「ヨシモト∞ホールの近くにあるので、劇場の出番15分前に行って食べても出番に間に合った」とか「豚しゃぶチャーハンは、店内に入って注文したら30秒で出てきた」などなど。
30秒ってなかなかスゴい速度ですよね。というわけで、提供スピードの秘密を探るべく厨房に注目していたのですが、3人の料理人が見事な連携プレーをしていることがわかりました。
1人目は、チャーハンを専門に作る係です。鍋をひたすら振り続け、並べたお皿に次々とチャーハンを盛っていくのに専念。そして2人目の料理人は、チャーハンにトッピングする料理の野菜や肉を切り分けて調理皿に載せていきます。注文されたチャーハンの種類・皿数に応じて頭の中で分量を計算しているようです。
最後の3人目の料理人は、その食材を受け取って中華鍋で炒める役割。これがまたとんでもないスピードなのです。チャッチャカと手早く炒めて、その料理をお玉ですくいあげ、土台のチャーハン上にドサッとのせてフィニッシュ! これをフロア担当のスタッフが、これまたすごいスピードで配膳するわけです。
もちろん定食や麺類も同様に作っているのですが、とくに10種あるおかずのせチャーハンが人気でものすごい量の注文が入るため、数を見越して超高速で作り上げているようです。

なお、今回の場合で言えば、30秒とはいきませんでしたが、筆者がカウンター席についてから2分ほどで「豚しゃぶチャーハン」が登場しました。2分でもめちゃくちゃ早いですよね。ちなみにこの豚しゃぶは、冷・温のどちらかを選べます。今回は冷しゃぶをチョイスしました。
食べてみると、チャーハンは、ご飯と卵だけのシンプルなタイプで、薄味でパラパラ系。なるほど、チャーハンとしての主張は限界まで押さえ、あくまでそこにのっかる料理と一緒に味わうことを前提とした味付けのようです。
なお、豚しゃぶと濃いめのニンニク醤油だれがかかっており、薄味チャーハンとの相性はバツグン。キリリと冷えた豚しゃぶ×温かいチャーハンという組み合わせが予想外に美味しく、暑い時にうってつけなひと皿でした。
続いて登場したのは、「ルースチャーハン」。

細切りのタケノコと細切りの豚肉のあんかけが、同じチャーハンの上にたっぷりとろ~りかかっています。甘辛くて濃いめの味わいで、これまた薄味チャーハンに見事にマッチ。
食べ進むうちにご飯と餡が渾然一体となり、噛むというより飲むように食べられます。豚しゃぶチャーハンも美味しかったのですが、ルースチャーハンのほうが味が濃い分、薄味チャーハンとのコントラストが楽しく、筆者的には好みの味でした。
ちなみに、2つのチャーハンを食べたにもかかわらず、胃もたれ感もなく、実に軽快。油っこさや強く尖った味がなくて、まるで和食を食べたかのような穏やかな食後感なんです。
店の外に一歩出ると渋谷の喧騒に飲み込まれますが、この店の中は、昭和ののんびりした空気が漂っていて、とても癒されました。ちなみに『兆楽』は創業60年以上。渋谷のど真ん中で昭和、平成、令和と愛され続けてきた老舗の魅力を、皆さんもぜひ一度味わってみてください。
(撮影・文◎土原亜子)