味付けは2種の八丁味噌と水だけ。串煮込みの旨さの秘密に迫る!

串煮込みに使われるのは豚モツでなく牛の内臓で、ハチノス(胃袋)やフワ(肺)、ナンコツ、スジ、ハツモトの5つの部位。その味付けがなんとも潔く、女将に聞けば、旨さの秘密をつつみ隠さず教えてくれます。
「味付けは八丁味噌と水、ニンニクだけ。それ以外は何もいれていないんだから」
水分を飛ばしながら味を染み込ませるように煮込まれる串のなんと滋味深いことか。浅草中の問屋で取り扱っている八丁味噌を片っ端から吟味し、試行錯誤を繰り返した末にたどり着いた答えが、2種の八丁味噌をブレンドすること。汁にはモツ同士の旨みが溶け出し、その味が味噌と一緒くたになり、再び串煮込みに染み込んでいったような、シンプルでいて深い味わい。女将いわく「水を加えて煮込んでも不思議と味が薄まらないから、うちでは魔法の味噌と呼んでいる」のだそう。ハチノス、フワ、ナンコツ、スジ、ハツモトの部位ごとのフォルムも美しく、食感も様々に楽しませてくれます。

そんな串煮込みをビールと合わせたら……。モツと味噌の味をスーパードライの爽快感で流し込む至福は想像するだけで喉がなりますが、ここではぜひほうじ茶割を! キンミヤ焼酎を薬缶でじっくりと煮出したほうじ茶で割った一杯の、香ばしく、風味豊かな味わいは、串煮込みとこれ以上ない取り合わせ。これぞ大衆酒場のマリアージュを楽しませてくれるのです。

そんな串煮込みがとびきり旨い『藤や』ですが、「ナンコツ炒め」、「あつあげステーキ」いった一品料理も秀逸。もちろん串煮込みとほうじ茶割だけでも十分この店の実力は推し量れることでしょう。
迷ったときの北千住。こんなハイレベルな酒場がそこかしこにあるのですから、北千住が酒飲みから愛される所以といえるでしょう。さあ、2軒目はどこに繰り出すか? 北千住ではハシゴ酒にだって困りません!
●著者プロフィール
吉田マッスグ
『食楽』本誌副編集長を務め、日々全国のトップレストラン、生産者などを取材する傍ら、酒場めぐりをライフワークにする。『吉田類の酒場放浪記』(BS-TBS)の番組本などをはじめ、これまでに吉田類氏とともに全国の多くの酒場を巡ってきた。吉田マッスグは、師と仰ぐ吉田類氏が名付け親。