
●巷の人気とは裏腹に、店主の高齢化と共に閉店が相次いでいる昭和生まれの町中華店。世代を超えて愛され続ける名店による銘品を、守り続ける人々の記録とともにご紹介。今回は川崎駅前の中華料理店『太陸』です。
川崎でも屈指の歓楽街として賑わう、川崎駅前仲見世通り。今では飲食店が多く立ち並ぶエリアだが、時代ごとにその姿を変えてきた。

亡き夫と共に、1961年からこの地で中華料理店『太陸』を営んできた小髙茂子さんは、「創業時のこの辺りは食事処も少なくて、店も出前も毎日大盛況でした。出前持ちも3人いて、駅前の雀荘などからひっきりなしに注文が殺到していました」と語る。

この店で不動の人気を誇るのが、タンメンと餃子。前日から仕込み、14時間ほどかけてゆっくりと煮出すスープは、豚足、鶏ガラ、昆布、煮干し、鰹節を使用。濃厚な動物性の旨味と、日本人になじみ深い和出汁の旨味が混然一体となった、どこかホッとする味わいだ。

現在では父から料理を学んだ娘の一恵さんと夫・孝幸さんが、昼夜交代で鍋握り、店の味を守り続けている。そんな二代目夫妻が生み出した新作が、「タワー硬焼きそば」だ。高さ15cmはある揚げ麺に、炒め野菜餡をたっぷりと流しかけた総重量は約1kg。その様相は、活火山から溶岩が流れ落ちるがごとき迫力だ。

「15年程前に沼津名物のタワーかき揚げをヒントに、遊び心で作り始めました。ラードで揚げた麺と野菜餡がたっぷりで、お酒にも合う一皿ですよ」と一恵さん。確かに、このリアル無限焼きそばをつまみに、一杯やるのもまた一興だ。
(撮影◎辻嵩裕 文◎佐藤由実)