田中一明のラーメン官僚主義!【第7回】麺家 歩輝勇【大田区・多摩川】

田中一明のラーメン官僚主義!【第7回】麺家 歩輝勇【大田区・多摩川】
食楽web

いざ、家系ラーメンの頂へ。日々継ぎ足すスープに賭ける店主の青雲の志

 横浜市における一大ラーメン激戦区・日吉の『武蔵家』で研鑽を重ね、満を持して一国一城の主となった店主。

「日々、丼と対峙している内に家系ラーメンの奥深さに魅せられ、自分自身の手でゼロからスープを創ってみたくなった」と語る表情には、どことなくあどけなさを感じる。聞けば、店主は平成8年生まれとのこと。若干二十歳で修業元の庇護から離れ、独立。その勇気ある決断には、素直に頭が下がる。

 2016年12月28日にグランドオープンを果たして以降、正月返上で営業。

 豚ゲンコツと鶏ガラを大量に投入し徹底的に煮込んだスープは、「今日よりも明日、明日よりも明後日。歳月の経過とともに確実に進化する味を」と、日々継ぎ足す『呼び戻し方式』(※1)を採用。食べ手に最善の味を提供すべく、店を開ける2時間前にはスープにチェックを入れ、綿密に味のバランスを調整する。それが、現在の店主の日課だ。

 このような工程を経て誕生したスープは、啜った瞬間から、動物系素材の豊かなコクが一寸の隙間もなく口内を占拠。豚ゲンコツの2倍以上に及ぶ分量の鶏ガラを使用することで、鶏ならではのメリハリのあるうま味がしっかりと表現されている点も、賞賛に値する。

「既存の家系のセオリーに捉われず、これまでの経験から自分自身が学んだ知見を活かした味づくりを試みていきたい」

 そんな店主の信条は、スープと合わせる麺のチョイスにも十二分に反映されている。家系ラーメンの定番である『酒井製麺』『大橋製麺』『丸山製麺』(※2)等の麺ではなく、店主がプライベートの食べ歩きの中で出逢い、「この麺こそ至高」と惚れ込んだ『三河屋製麺』の中太麺を大抜擢。

 その麺をあえて硬めに茹で上げることで、他店との差別化が困難な家系において同店ならではの味を具現化できている点は、見事の一言に尽きる。モッチリと柔らかな太麺でなく、筋肉質な硬めの中太麺を用いることで、家系ラーメンの新たな可能性を鮮やかに提示。

 この柔軟な発想は、一体どこから湧き上がってくるのだろう?

 果てしなくコク深い濃厚スープと、スープを真正面から受け止める力強い麺が織りなす華麗な競演を愉しみながら、そんなことを考えていた。

(撮影・松山勇樹)

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(※1)呼び戻し方式とは?
豚骨スープの伝統的な製造方法のひとつ。当日使用したスープの残りを捨てることなく保存し、それを、翌日作った新しいスープとブレンド。その過程を日々積み重ねていくことで、セントラルキッチンでは実現できない、コク深いスープを創り出すことが可能となる。

(※2)家系でよく用いられる麺とは?
横浜のご当地ラーメンである家系ラーメンには、一定の「型」が存在し、麺に関しては、モッチリとした食感が特徴的な短尺(麺長が短い)太ストレート麺を使用するのが基本。
家系麺を手掛ける代表的な製麺所は、『酒井製麺』『丸山製麺所』『長多屋製麺所』『増田製麺』『大橋製麺所』など。

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●SHOP INFO

歩輝勇(ぽきお)

店名:麺家 歩輝勇(ぽきお)

住:東京都大田区田園調布1-52-3
TEL:03-3721-7075
営:平日17:00~24:00、土曜11:30〜15:00 17:00〜21:00
席数:14席(カウンター8席、座敷6席)
休:日曜・祝日
https://twitter.com/menya_pokio_com
ラーメン750円、赤ラーメン、黒ラーメンは共に850円(※価格は3/1より変更予定)。栗豚の厚切り豚バラ塩焼、栗豚の豚トロ焼きなど、おつまみメニューも充実。

●著者プロフィール

田中一明

フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。現在までの通算杯数は8,000杯を超える。