普段使いはうすはりグラス。特別な日には江戸切子を。【酒器も肴のうち】

お酒をつぐ器、お酒を飲む器。酒器に思いを巡らせると、気になってくるあの人のお気に入りやコレクション、あのお店のセレクション。酒器を愛でて一献傾けるのが好きなライターによる酒器折々、酒器こもごも。

普段使いはうすはりグラス。特別な日には江戸切子を。【酒器も肴のうち】
食楽web

『酒器も肴のうち』第24献にご登場いただくのは、目黒「トラットリア・デッラ・ランテルナ・マジカ」のカメリエーラBettina Giannini(以下、ベッティ)さん。大の日本酒好きだという。一体どんな酒器をお持ちなのだろう。興味津々である。酒器を見せていただく前に、日本酒のイメージをうかがってみた。

「イタリアにいた頃、私が住んでいた街の日本料理レストランで飲んだお酒は美味しくなかった。メニューにSAKEと書いていたけれど、とても強いお酒で、いま思えば日本酒じゃなく焼酎だったのかもしれない。例えると、ワイン(赤・白)と書いてあるだけのメニューに似ています。選べない、それしかない、正体がわからない!」

 今でこそ日本食ブームとともに海外での愛飲者も多いSAKE。年々、輸出の勢いは加速しており、品評会などで高い評価を得た日本酒は国内より海外にあるとも言われるが、その当時はSAKEによい印象を持たなかったベッティさん。日本に来て、居酒屋で飲んだ日本酒で悪いイメージはすぐに払拭されたという。

「銘柄は覚えていないけど、イタリアで飲んだSAKEとはまったく別もの。お刺身と一緒に味わい、相性のよさに感動した」と話す。食文化の違いと固定概念もあり、ベッティさん独自の日本酒と食とのマッチング考も実におもしろい。

「天ぷらなどの揚げものとは一緒には飲まないです。お漬物もちょっと苦手かな。日本酒を飲むときは絶対お刺身。これはもうワンセット! お刺身がないときは日本酒を飲まない」と断言。

 筆者などは、和食と日本酒、とりあえず合うだろう、合うに違いない、合うってことにしようと深掘りせずに飲んでしまう。もちろん、そうじゃない時もある。“コレにはコレ”を突きつめすぎて、そんな自分に疲れることもあるくらいだ。

 ときどきチーズをアテにして飲むので、ベッティさんはどうだろうと聞いてみると「ないない!」と即否定された。どうやら今のところベッティさんにマッチングの変化球はないらしい。アテの話題に夢中になりすぎて、本題を忘れそうになった。そうだ、酒器、酒器。

「普段はうすはりグラスを使うことが多いです。薄くてシャープな口当たりが心地いい。洗うときは気をつかいますけど」

 吟醸酒の芳醇な味と香りを楽しむためにつくられたうすはりグラスだが、実はお酒よりもお水用に使うことが多いというベッティさん。イタリアから来日した知人への日本みやげにも同じものを贈ったというほど気に入っているそうだ。そしてもうひとつ、大切にしている酒器が登場した。「伝統工芸 江戸切子」と書かれた木箱だけ見ても、さぞかし…(お高いんでしょう?)。

 数年前にご結婚されたベッティさん。「お客さまからお祝いにいただきました。カッティングが美しく、重厚。テーブルセッティングを整えて食事をするときやナターレ(イタリアのクリスマス)など、特別な日用です。

 私のおばあちゃんはリキュールが好きで、この切子と同じくらいの大きさのショットグラスを愛用していました。カッティングもここまで緻密ではないですが、とてもきれいなグラスでした。大切なお酒を飲むときに使っていた記憶があります。これを見ていると、その記憶が重なることもあります」

 うすはりは日常で、切子は特別な日。ハレとケで酒器を使い分ける。どちらも職人の手によって作り出された日本が誇るガラス工芸品。そんなの持ってないよと言う酒好きも多いかもしれない。

 我が家にもうすはりグラスが2脚あった。とうの昔に破損して、以来うすはりは持っていない。たまに使う程度だったのに、不注意で破損してしまった時のことを今でも覚えている。そうかと思えば、日常使いなのにコツンともパリンともさせずにいるベッティさん、アンビリーバボーである。ベッティさんとの酒器トーークは来週に続きます。

【酒器FILE 017】 愛用者:Bettina Giannini(「トラットリア・デッラ・ランテルナ・マジカ」カメリエーラ) *口径60mm *高さ60mm *容量100cc *重量126g
【酒器FILE 017】
愛用者:Bettina Giannini(「トラットリア・デッラ・ランテルナ・マジカ」カメリエーラ)
*口径60mm *高さ60mm *容量100cc *重量126g

●DATA

トラットリア・デッラ・ランテルナ・マジカ

トラットリア・デッラ・ランテルナ・マジカ

目黒駅至近の静かな住宅街にあるトラットリア。こんな場所にレストランが? と思わせる立地もツボ。絶対的レギュラーのグランドメニューに加え、もはやアートの域にある黒板メニューのせめぎ合いでオーダーに悶々と悩むこと必至。イタリアの州にスポットを当てたイベントも好評。開催中の「アブルッツォ州」特集は12月2日まで。

●SHOP INFO

住:東京都品川区上大崎2-9-26 T&Hメモリィ1F
TEL:03-6408-1488
営:17:30~23:00(L.O)
休:日曜

●著者プロフィール

取材・文/笹森ゆうみ

ライター。蕎麦が好きで蕎麦屋に通っているうちに日本酒に目覚め、同時にそば猪口と酒器の魅力にとりつかれる。お酒、茶道、着物、手仕事、現代アートなど、趣味と暮らしに特化したコンテンツを得意とする。