
かしこい道具さえあれば、腕はなくともおのずと料理のレベルはアップする。道具で楽しむ・道具でラクする料理エディター、Amiyumiの“道楽料理”。
だし巻きたまごサンドと出会ったひと夏の想い出
私はたまごサンドが大好きである。サンドイッチといえば、とにかく、たまごサンド。たまサンと愛称で呼んで親しんでいる。もちろん、たまサンは、ゆでたまごをつぶしたものを少しの塩とマヨネーズでまぜ、パンにはさんだもののこと。ときどき新鮮なレタスが加わるくらいで、これ以外は、たまごサンドとはいわない……とまあ、そのときまでは思っていたのだ。
それが私の前に現れたのは去年の夏のこと。手土産でもらったきれいな化粧箱を開けると、中には、だし巻きたまごのサンドイッチがきっちりと詰められていた。だし巻きなんてパンに合うのかねーと頭のどこかで考えるより先に、見た瞬間に食指が動いていた。ほおばると、和からしの効いたマヨネーズソースがたまごとよく合い、軽い衝撃を覚えたものだ。そのとき私は、一つ扉を開け、第二のたまサンと出会ったのである。以来、だし巻きたまごサンドは大好物である。しかし、手土産が来るのを手ぐすねひいて待っていたのでは食べられない。であれば、自分でつくるしかない。
だし巻きたまごは、専用のたまご焼き器で作る。たまごが何層にもなっているのは、くるくると巻きながら焼くからだ。かねてから私が愛用しているのは、銅製のたまご焼き器で、もう20年以上使っている。写真のとおり、さすがに年季入りだが、長いこと使っているので、油なじみがよく、たまごがくっつくこともない。だし巻きたまサンの美味しさを知ってからというもの、この道具の使用頻度がとても増えたのはいうまでもない。そのついでに、たまご焼き器について調べてみる。
たまご焼き器の材質は、鉄、アルミ合金、ステンレスなどいろいろある。これらの材質の中で、銅が圧倒的に勝っているものが熱伝導率の高さである。そのため銅は弱火でも、熱を鍋全体にまんべんなく伝えることができる。たまごの味と風味を保ちつつ、焦がさずにふんわりと焼けるので、昔からだし巻きたまごには銅が最適とされているわけだ。
そうだったのか。確かにいままで、それほどがんばらなくても、美味しいだし巻きたまごを作ることができた。それは決して腕のせいではなかったのだと、20年目にして思い知らされたのである。