かしこい道具さえあれば、腕はなくともおのずと料理のレベルはアップする。道具で楽しむ・道具でラクする料理エディター、Amiyumiの “道楽料理”公開中。
台所の外来種は、心底デキる奴だった
ニュースで知ったのだが、ここ数年、多摩川が大変なことになっているらしい。ペットとして飼われていた水生生物が川に捨てられ続けた結果、エンゼルフィッシュやグッピーなどのかわいい熱帯魚はもとより、ピラニアや肉食系のカメといったどう猛な外来生物なども棲みついているというのだ。まるでアマゾン川のようなので、最近は「タマゾン川」と呼ばれているとか。
このような外来種の問題は、日本各地で起きている。外来種が増えるにつれて、在来種が激減。中には絶滅が危惧される生き物もいる。そう、こうしている間にも、水の中では在来種たちが、“奴ら”の猛威に怯えているに違いない……。
そんな深刻なニュースを見ながら、なぜだかふと思い浮かんだのがわが家のキッチンである。台所に、“せいろ”という名の、外来種が放たれたのは、数ヶ月前のことである。2段重ねの中華せいろ&鍋のセットは直径21cm、せいろとしては小ぶりだが、そこそこの大きさがある。棚にしまうのが面倒で、ガスコンロの上に置きっ放しにしていたのが事の発端だ。
ある時、冷凍ごはんをチンして食べようと思ったら、ふと、せいろが目に入り、電子レンジは止めて、蒸してみようとなる。するとチンするより美味しいではないか。あるときは温野菜を食べようと準備していたら、また目に入り、野菜蒸しにしてみる。ゆでるよりかんたん、野菜の栄養も逃げにくい、こりゃいい! となる。いつもの肉野菜炒めも、蒸せば炒める手間も省けるなー、とまあ、そんな調子で、シュウマイや肉まんも蒸してふかふかに。豆腐も蒸してフルフル温豆腐に。冷えた焼き鳥も蒸してジューシー焼き鳥に……と、あらゆる調理にせいろは関与しはじめたのだ。
しかも、上段と下段で違う素材を同時に蒸せるし、そのまま食卓に運ぶことができる。思わずつぶやいた。「いやもうせいろさえあれば!」。そんな、せいろ勢力の陰で、在来種である電子レンジ、片手鍋、フライパン、グリルパンといった調理器具たちは、出番を奪われるばかりか、その存在さえ忘れ去られようとしているのだった。
せいろには、大きく分けて中華せいろと和せいろがある。中華せいろは、蒸した後、食卓に出して気軽に使えるので家庭では一般的。和せいろは深さがあるので、茶碗蒸し、おこわ、芋などを蒸すのに適している。