突然の別れから子供の夢を繋ぐため、未経験ながらラーメン店開業を決意!

広美さんのご主人は、同じ横須賀市の津久井浜にあった豚骨ラーメンの店『麺屋庄太』の創業者・下里庄太さん。しかし2020年2月に突然の死別。それまで人手が足りない時に店の手伝いはしていたけれど、ラーメン作りには携わっていなかった広美さん。
「息子が主人のことを尊敬していて、将来ラーメン店をやりたいと。父親の意思を継ぎたいと言って。それなら、子供が大きくなるまで私がラーメン店を頑張ればいいと思ったんです」(広美さん・以下同)
ただし、『麺屋庄太』の味をそのまま引き継いだのではありません。
「豚骨のスープを作るのは、力が必要で大変なんですよ。そこで、以前三浦海岸のイベントで主人が作っていた、ホンビノス貝を使った貝出汁ラーメンを思い出して、その時のラーメンがすごく好きだったので、そういうラーメンだったら作れるのかなと思って」
店の顔となる「潮 らぁ麺」。貝の滋味と牛骨の深みが絶妙なバランス!

広美さんはラーメン屋を継ぐにあたり、現在の相方さんや庄太氏の仲間だったラーメン店の店主の方々に相談。そこから「ラーメン店をやるなら、作ってみれば?」と声をかけてもらった広美さんは、北久里浜にあるラーメン店で初めてラーメン作りに携わるようになります。
『麺屋庄太』で修業後に独立し、現在は別の店でラーメン店を営んでいる人など、庄太氏と交流のあった、さまざまな有名店の店主たちが、広美さんに手を差し伸べてくれました。
「ホンビノス貝だけじゃなくアサリを入れようとか、貝だけよりも牛骨をプラスした方がいいんじゃない? など、スープの味が決まるまでいろいろなアドバイスをしていただきました。板橋区にあるラーメン店の店主さんには、今も何かと声をかけていただいていますね。主人と繋がりのある多くの方々に助けてもらって、今がある感じです」
ご主人と突然の別れから約10ヶ月後、思い描いていた貝出汁ラーメンをブラッシュアップした広美さんが2021年にオープンしたのが、『らぁ麺 SUNGO』なのです。
3種の醤油の旨みがプラス!「醤油 らぁ麺(+半熟うずら)」

店内は、女性一人でも気軽に入りやすい、開放的な雰囲気。地元で働くサラリーマンや子供連れ、年配のお客さん、女性の集まりなど、老若男女を問わずいろんなお客さんがラーメンを楽しんでいます。
「女性店主だからナメられたり、怖い目に合う、ということはないです。夜もやっていますけど、いいお客さんばっかりですね。『もし何かあったら声かけて』って周りのお店の人にも言ってもらっていますし」と笑う広美さん。
YRP野比に店を出した理由は地元だったから。当時小学生だった子供たちの子育てをしながら店を営むため、場所はこの周辺に決めていたとのこと。そしてたまたま現在の店の場所で営業していた居酒屋がクローズして空いていたため、ほぼ即決で決めたそうです。

前述の通り、オープンしたのは2021年。コロナ禍だったこともあり、オープンしてからも何かと大変だったそうですが、その美味しさが口コミで広まり、ラーメン専門誌などでも紹介されるように。最近では、大きなラーメンイベントにも呼ばれるようになるなど、確実に人気が高まっています。
「イベントに呼んでいただけるのは本当にうれしいですね。多くの人にこの店を知ってもらえるよう、今後もいろんなところから声がかけられるように頑張りたいなと思っています」

ちなみに取材時は、2024年のGW後半に開催される「大つけ麺博Presents よこすかラーメン艦隊」に出店する直前。このイベント限定のメニュー「牛っっとアサリの潮つけ麺」を出す準備を進めているタイミングでした。
つけ麺やトルティーヤ風混ぜ麺もおすすめ!

さらにこの日は、つけ麺もメニューにありました。丸いチャーシューに、ピリ辛味のアサリ入りつけ汁、上にとろけるチーズがのっています。「辛いのが強くない人でもチーズでまろやかに味わえますよ。このつけ汁に入っている肉味噌は、『麺屋庄太』のレシピで作る肉味噌(辛味噌)なんですが、1/6ぐらいの辛さにしています」と広美さん。
そして、もう一杯あると作ってくれたのが、裏メニューの「まぜティーヤ」(900円)。「これは、店の賄いで食べていたんですよ」と話すのは、まるでタコライスのような混ぜ麺。トルティーヤチップスにトマト、レモンなど、彩りが華やかです。「混ぜてみ〜や、みたいな感じで。今日はトルティーヤをのせています」
ちなみにこのつけ麺と和え麺は、季節限定で登場するメニューだったり裏メニューだったりするので、ある日とない日があります。ちなみに、サボテンの形のメニューが壁に貼られていたら「まぜティーヤ」を注文することができますよ。
サイドメニューの「ごはんもの」は3種類!

麺メニューの他にもご飯系もあります。「ホタテご飯」は、味のついたホタテをほぐしたもので、上に大葉やネギがのっています。隠し味にショウガダレが入っていて、薬味ご飯的な感じです。「これにスープをかけて食べる人も多いんですよ」と広美さん。なるほど! 海苔は走水、ワカメは長井のものなど、地元食材も使っています。
「しらす丼」のシラスは、三崎市にある水産業者・『君栄丸』のシラスを使用しています。ちなみに「チャーシュー丼」(380円)は、『麺屋庄太』の時に作っていた、甘辛のタレをかけています。ここにもご主人や仲間が残してくれた、『麺屋庄太』のレシピが活きています。
まとめ

突然の別れからラーメン修業を初め、1年をたたずして店を開き、3年経った今では横須賀の人気店へと成長した『らぁ麺 SUNGO』。
「庄太の子供たちのために、ってみなさんが手を貸してくれて。支えていただいたみなさんが師匠であり先生という感じです」と話す広美さん。常にニコニコ、明るく穏やかに話す姿からは、想像できないくらいたくさんの苦労があったと思います。
「将来、息子がラーメンをやりたいって言った時に、いろんな方たちとの繋がりが途絶えないでいた方がいいですし。みなさんから早く(庄太氏が作っていた)豚骨やりなよ、と言われるんですが、息子だったらできるかもしれないですよね(笑)」
今でも『麺屋庄太』に通っていたお客さんが声をかけてくれることもあり、励まされることが多いそうです。
「職人として主人がやってきたところまでは行ってないけれど、気持ちの面だけでも、と思っています。主人は24時間ラーメンのことを考えていたけれど、私は家に帰れば子供のことや家事のことを考えちゃうし。ただ、お客様を一番に考えるとか、子供たちには優しくとか、子供が入りやすい店にするとか、そういうところは同じ気持ちでやっていますね」
貝の持つしっかりした旨みと、牛骨ならではの華やかな旨みが絶妙なバランスで共存する一杯は、まさに唯一無二の味。そして広美さんらしい、強さと優しさを感じるラーメンが世代を超えて多くの人に愛されているのにも納得です。
(取材・文◎いしざわりかこ)
●SHOP INFO
店名:らぁ麺 SUNGO
住:神奈川県横須賀市野比1-10-3
TEL:050-8881-0034
営:11:00〜14:30、18:00〜21:00(20:30LO)
休:火曜(※不定休あり)