これだけ自由で遊び心があるお酒ほかにはないと思います

「連載していた時期は、編集者と一緒にビアバーの取材三昧でしたね。頼道さんとアランの関係を軸にストーリーを考えて、合いそうなお店を選んでいました」
もともと店で飲むのは苦手だった敦森さんだが、取材で店へ通うにつれて、ビールに関わる店の人や造り手の想いに触れたという。
「クラフトビールって、造る規模が大きくないからこそ、造り手の顔が見えてくるというか、想いを感じられると思います。お店の人も、ビールに想いがあるから、仕入れるラインナップに個性が表れてますよね。ビールを知れば知るほど、そこに関わる人の人間性みたいなものが感じ取れて面白いんです」
まるで鉄の味?! 好奇心を刺激された異国のビール
![[食楽web]](https://cdn.asagei.com/syokuraku/uploads/2023/09/20230911-atumoribeer06.jpg)
敦森さんは今でこそ大のビール好きだが、クラフトビールの魅力に目覚めたのは、10年ほど前のビアフェスで飲んだビールがキッカケになったという。
「その時飲んだベルギービールが、本当に不味かったんです! 不味くてというか当時の味覚では苦手で……(苦笑)。まるで鉄を溶かしたような味がしたんです。『世界にはこんな味のビールがあるのか!』って衝撃でした。そこからビールの幅広さを知って、地ビールを中心に味や造りの個性を愉しむようになりました。いつかまた、あの鉄のような味がするビールを飲んでみたいなぁ」

固定概念を打ち破るビールによって拓かれた、ビールへの好奇心。初めて降り立つ街では、必ずクラフトビールを扱う店を調べて訪ね、話題の造り手やビアバーの情報は、SNSでのチェックを欠かさない。精力的なビア活を続けている中「ビール仲間との出会いにも恵まれた」と嬉しそうに笑う。
「お笑い芸人のウエストランド井口浩之さんが主催している『井口ビール部』に入れてもらいました。コロナ禍中はリモート飲みで、それぞれが買ってきたビールを紹介しながら飲んだり、会えるようになってからはビールを飲むためだけに草津まで、みんなで旅行したり。笑いあって、ビールの美味しさに驚いて、本当に楽しい会です」
取材で知り合った店の人や造り手、『井口ビール部』の面々と知り合う中で、クラフトビールには人の魅力が色濃く出ていると感じるようになった敦森さん。そんな想いが『よりみちエール』にも込められ、ビールの個性や魅力と同じほどに、登場人物の人間模様が盛り込まれている。

「クラフトビールの魅力って、私は良い意味での“チャラさ”にあると思うんです。原料になる麦芽、ホップ、酵母、水の組み合わせだけで膨大な種類があって、さらにいろいろな副原料も組み合わせることもできる。無限大な自由度で造れるから、造り手やお店の人の個性が表れて、飲む人たちも好みが分かれて、人それぞれの意見を交換できる。遊び心があるクラフトビールは、どれだけ飲んでも飽きませんね(笑)」
(撮影◎吉澤健太(P28~31)、文・構成◎河野大治朗)
◎プロフィール
敦森 蘭
北海道出身。斉藤倫、浅野いにお、井上三太のアシスタントを務め、2015年『ラジオからきこえる』で第37回MANGA OPENで奨励賞を受賞。2020年より執筆した「よりみちエール」は全2巻刊行
●SHOP INFO
常陸野ブルーイング・ラボ 神田万世橋店
住:東京都千代田区神田須田町1丁目25-4 マーチエキュート神田万世橋N1区画
TEL:03-3254-3434
営:11:00~22:00(日・祝11:00~21:00)
休:施設に準ずる
予算:2000円~
個室:なし カード:可