沖縄・石垣の“香りもんじゃ”に悶絶!

それではさっそく、こちらで「煎餅もんじゃ」を初実食といこう。
と、その前に。筆者が、これまで食べてきた普通の「もんじゃ」の記憶をたどってみた。熱々の鉄板から、小さなヘラで「もんじゃ」をすくって、ハフハフと口に入れて味わえば、確かにお出汁がきいていて美味しかった気がする。だが、待てよ。食べ終わって帰る頃、大概こう思っていた。「あれ? どんな“もんじゃ”だったっけ?」と。とにかく印象が薄いのだ。その理由は、ヘラですくいあげたものが結局、トロトロで、つかみどころもメリハリもなく、ビジュアル的にも重量的にも至極おとなしいところに原因があるのではなかろうか。お好み焼きのように、「肉だ、タコだ、カリッと、ふわっと」と、「どうだ、旨いだろ」などと主張してこないのも、もんじゃの特徴だ。
ところが、ここで食べた「もんじゃ」は、ぜんぜん違った。個性が強い。クセがある。香りや味のメリハリがあり、それがまとまって全体として強い主張がある。
例えば、人気の「イカスミジューシーイカワタ石垣島もんじゃ」。ネーミングからアクが強いが、出てきたカップの中の具材も印象的。普通のキャベツではなく紫キャベツ。そこにセロリ、パクチーといった香りが強い野菜があり、さらにイカワタに加え、「え、これ、入れちゃうの?」と唖然とする真っ黒なご飯!
こちらはお店の人が焼いてくれるというので、お話を聞いてみると、
「“ジューシー”というのは、沖縄の方言で炊き込みご飯のことです。こちらは、アサリだし、カツオだし、イカスミ、豚バラ肉で炊きこんだご飯です」と教えてくれた。
さらに、作り方を見ていると、熱々の鉄板に、まず炊き込みごはんだけを載せ、残りの具材と汁を一気に流し込む。普通のもんじゃのような“土手”は作らずに、煙が立つと同時に、すぐさま2枚のヘラを使ってリズムを刻みだす。「チャカチャカ、チャカチャカ、チャチャチャ!チャカチャカ、チャカチャカ、チャチャチャ!」。この激しい音色が、まるで祭囃子のようで、なんとも威勢よく、楽しい。

ヘラが狙い撃ちしているのは紫キャベツやセロリなどの具材である。これらを木端微塵に切り刻み、しっちゃかめっちゃかにしていく様が気持ちよくて仕方ない。適度な頃合いでお米と合わせ、さあ、できあがり。見た目は、まるでパエリアのようだ。だが、まだ続きがあった。今度も見事なヘラさばきで、超薄型煎餅くるくると丸めて作っていく。とんでもない職人芸!


作り方のインパクトもさることながら、焼いている最中から、香りがものすごい。パクチーの爽やかな香り、八角やシナモンのようなちょっと甘いような不思議な香り、イカワタの独特の香りなどが強烈に鼻に飛び込んでくる。そして、口にすれば、ちょっと辛くて、酸味があり、ダシやイカワタなどのエキスが舌にじんわり染みてくる。固めに炊いたご飯も、きちんと主張がある。パリッパリの煎餅の方は、これまた、凝縮した香りが立ち、旨みあふれる濃い味。う~ん、これは泡盛が欲しくなる。
これはどえらい「もんじゃ」に出会ってしまった、と思わざるを得ない。
メニューは他にも、「ノルウェーの(森)もんじゃ」や、「醗酵羊挽肉のもんじゃ」、「レモンじゃ」など面白そうなものがたくさんあった。

