
●「せんべろの聖地」と謳われ、多くの呑兵衛達を魅了してきた立石の街が、駅周辺の再開発により大きく変わろうとしています。
その激変する北口エリアにおいて、移転のため一時休業、2年間の沈黙を経て待望の復活を遂げた鳥肉専門店が『鳥房(とりふさ)』です。
名物は、なんといっても鶏を半身丸ごと揚げて作る豪快な「若鳥唐揚」。ワイルドなビジュアルに加え、芳ばしい香り、サクサクの歯応えにパリパリと弾ける音とほど良い塩味……。
『鳥房』の26年来の大ファンである筆者が激推しする、絶品唐揚げの魅力をご紹介します。
戦後復興の中で誕生した『鳥房』

こちらの絶品唐揚げをご紹介する前に、まずお店の歴史を紐解いていきましょう。
時は戦前、現社長のお祖父さんが会社を興し、駅周辺に点在する池のそばで、養鶏場と精肉小売業を営んでいました。やがて戦争が終わり、空襲の被害を免れた駅周辺には闇市が立ちます。その北側に新たに店舗を構え、2代目であるお父さんが、お母さんの名前(“房江”さん)から一文字取り、『鳥房』が誕生。
店は赤線地帯(ゾンビ通り)と青線地帯(呑んべ横丁)に挟まれ、人々の生活と色街が隣り合わせに混在する世界。その風情は近年まで色濃く残り、呑兵衛や昭和レトロファンを惹きつけてきましたが、再開発のため、惜しまれつつ閉店。
それから2年後の2025年7月。同町内の数ブロック離れた場所に舞台を移し、新たな幕を開けたのです。
暖簾をくぐり、いざ店内へ

「いらっしゃい!」元気な声が迎えてくれます。4人掛けのテーブルが3卓と、カウンターが7席ほどの明るい店内。壁に掛けられたお品書きには唐揚げの値段は時価とあり、鳥の目方で決まります。この日は900円と950円。迷わず大きいほうを選択しました。
お通しの「鳥皮の生姜煮」をつまみつつ、揚がりを待ちます。

充実のサイドメニューも外せません。押さえておきたいのが、根強い人気の「鳥ぽんず」。

霜降りタタキのむっちりシャクシャクとした歯切れが抜群の鮮度を伝え、ポン酢を吸った長ネギの薬味で肉の甘みを引き立てています。来店するほとんどのお客さんが頼む逸品です。
脂が旨い「若鳥唐揚」登場

『鳥房』の唐揚げの特徴は、衣をつけず、半身を丸ごと素揚げしているところ。
下味をつけた鳥を下揚げし、注文を受けてから温度の違う2つの鍋でさらに揚げて仕上げます。「お待ちどうさまー」キラキラと黄金色に輝く唐揚げが到着しました。
まずはモモ部分を関節部で切り離し、千切りキャベツの上にのせます。味付けはシンプルな塩味。
揚げたての首や骨がカリポリ止まらない美味しさ。皮はパリっと、しっとりジューシーな胸肉からかぶりつきます。
モモ肉の旨味たっぷり肉汁と芳ばしい脂がキャベツに馴染んだら、先ほどの鳥ぽんずの薬味をかければ最高のドレッシングに。
そしてもう一つの名物、ベテランのパートのお姉さま方の強めアドバイスも、昔よりは柔らかくなったものの健在です。
ちなみに唐揚げの解体でお困りの方は、お手隙のタイミングでお願いすると、見事な手捌きでバラしてくれますよ。
代々受け継がれる技と変わらない味

「親父が唐揚げを始めてから73年、味もやり方も、ひとっつも変えてない。手取り足取り教わるっていうのはなかったな。見ながら覚えたもんだよ」
江戸っ子らしい歯切れの良さで語るのは、3代目社長の水澤昭さん。使用する油のブレンドもまったく同じ。あとはその都度、感覚で微調整し油を育て、同じ味を保つそうです。
「鳥の状態を見て、常に同じものができるように調整する。揚げ時間も油も。長年培ってきた勘だね。あとはハートかな(笑)。休みを少し増やしたし、まだまだ100歳までやるよ!」
帰ってきた味と香り。そして柔らかな水澤さんの笑顔に心がぽかぽかと温かくなりました。
●SHOP INFO
鳥房(とりふさ)
住:東京都葛飾区立石7-3-2
TEL:03-3697-7025
営:16:00〜20:00、日・祝15:00〜20:00
※テイクアウトの注文時間も同上
休:月・火






