メキシコの伝統料理「チレスエンノガダ」って何?

奥の席に着き、「何かおすすめのお料理ってあります?」と尋ねると、「この時期しか食べられない特別なお料理があるんですよ」と渕上さん。それが、“ポプラノ”という辛くない唐辛子に挽肉を詰め、ソースをかけた「チレスエンノガダ」(スペイン語でクルミの木)という料理でした。
メキシコでは、スペインの植民地支配から独立宣言を行った9月16日を「独立記念日」としていて、お祝いムードのなか、家族でこの郷土料理を食べるんだそう。記念日の時期にはメキシコ中のレストランにも並ぶ、まさに国民的な伝統料理。でも、日本で食べられる店はほとんど見当たらないのだとか……。これは、期待値が上がらざるを得ません!

ビールが大好きな筆者は料理を待っている間、食前酒としてコロナとフローズンマルガリータのカクテル「コロガリータ」を注文。コロナビールのボトルを引き上げ、マルガリータに少しずつ混ぜながらメキシカンな一杯を堪能していると、いよいよ「チレスエンノガダ」が運ばれてきました。

白いソースにトッピングされたザクロの実とパクチーがアクセントになっていて、クリスマスのテーブルに並べたいようなビジュアル! これまでメキシカンに対して抱いてきたワイルドなイメージが、いい意味で覆された瞬間でした。
クルミのソースが絶品&食感が楽しい!

口に入れると、まずソースの濃厚な味わいが広がります。ミルクとチーズのコク、ふわっと漂うクルミの香りが印象的。「お皿を片付けようとすると、まだソースが残っているから、ちょっと待って! と皆さんおっしゃるんですよ」(渕上さん)。わかります! 最後のひとすくいまで味わい尽くしたいほどの美味しさですから。

日本ではポプラノ(唐辛子)が手に入らないので、こちらではピーマンで代用しているそうです。ソースを除けば、まるでピーマンの肉詰め! これに衣をつけて揚げ、クルミのソースがかかっています。

中身は「ピカディージョ」といって、挽肉、果物、クラッシュアーモンドを炒めたもの。リンゴやモモ、干しブドウが入っているので、ほんのり甘みを感じます。シナモンやクローブなど、スパイスも数種類入っているのがわかりますが、辛くはありません。複雑だけど優しくて、懐かしさすら感じさせる味わい。こんな料理があったなんて…至福の味をすっかり堪能しました。