南インドのミールスとは?

カウンターに座ると、とらさんがせっせせっせと調理する様子がよく見えます。サービスを担当するのは奥様です。

ランチミールスは、葉っぱをかたどったプレートの上に載って登場します。インディカ米と汁、そのほかの副菜と合わせて全12種類。同時に内容紹介と食べ方を書いた紙も渡されます。
しかし、取説が苦手な筆者は、南インドの料理名や用語は斜め読みして、「食べ方」というところに注目しました。「おかずだけ、ご飯だけというふうに別々に口に入れないようにしてください」「積極的に混ぜ合わせることにより自分好みの味を作り出してください」。ものすごく“自由”を感じます。

ここからは本領発揮です。まずは、ちょっとずつ器に入った料理を味見。刺激の強いものはほとんどなく1品1品はぼんやりした味ですが……
サンバルという「煮豆汁」をご飯にかけました。ご飯には「豆の煮込み」が載っており、汁と合わさると、豆の“渋み”と“コク”がご飯に浸透するよう。次に本日の野菜から、「人参の炒め蒸し」を混ぜ合わせてみると、ココナッツやナッツなどのまろやかなコクと人参の“甘み”が加わります。かわいいピンク色の汁は、「ビーツとヨーグルト」。そこにココナッツフレーク、マスタードも入っているそうで、ご飯全体にマイルドな酸味が加わり、これが後を引きます。

今度は、「ココナッツチャトニ」と言われるものを少々混ぜるとレモンの“酸味”が加わり、さらに、「マンゴーアチャール」というピクルスを足すと、辛さやしょっぱさがプラス。野菜から感じる苦味や渋みなども感じて、味が何層にも重なっていっていくんです。つまり、混ぜれば混ぜるほど味の輪郭がはっきりしていきます。こりゃ面白い。
ウキウキしていると、とらさんが、
「このプレートの中は、甘、酸、塩、辛、苦、渋といった“六味”を入れているんです。これはアーユルヴェーダというインドの伝承医学の、味覚を6つに分け、それらを全部食べることが健康に良い、という考えに基づいて作っているんですよ」と教えてくれました。ふむふむ、「医食同源」と言いますものね。
「化学調味料は使用せず、油もほとんど使いません。豆や野菜と、ココナッツ、ヨーグルト、ハーブ、スパイスを使って、素材の味の掛け合わせで1品1品の味を作っているんです」とも。
薄味でも味を重ねていくと、六味の強弱がはっきりしてきて、複数の味が合わさると旨みになる。そんな感じがします。

