神と仏の習合の地で、和と中華の仕事で挑む

山岳信仰と神仏習合の地として知られる大分県国東半島。両子山という岩山を中心に6つの山稜に分かれた半島には、総称して「六郷満山」と呼ばれる無数の寺院が点在しています。日本古来の宗教観である神仏習合もこの地で生まれたといわれ、土地に根付いた山岳信仰と混淆し、この地独自の六郷満山文化として発展。神と仏、さらには鬼が共存する土地です。
そんなこの土地ならではの歴史と文化を、川田氏は自らの料理観に重ね合わせたのも興味深い点です。四川料理の雄『麻布長江』で中国料理の腕を磨き、その後、自らが暮らす日本を深く知るために日本料理『龍吟』でも研鑽を重ねた氏。現在の店では「和魂漢才」をポリシーに掲げ、中華料理の大胆さに、日本料理の精緻さ、滋味深さを加え独自の料理を生み出しています。
国東でしか味わえない宴の料理が次々と運ばれると、その度に驚嘆の声、うなり声、笑い声と参加者はそれぞれに国東を楽しみ、この土地の豊かさを知っていくのです。


料理に込めたメッセージに国東の美しさを知る

幻と言われ、2夜限りの特別コースとして振る舞われた料理の数々。川田氏は短い2日間という期間だからこそ、あえて料理に数々のメッセージを込めたように感じました。
例えば、この地に根付く鬼の文化を表現した魚料理では、地元では雑魚として扱われる三島フグに焦点を当てていました。それはこの地の豊かさであり、見過ごされていた食材の素晴らしさを再発見できる体験でした。
例えば、唐辛子と山椒が印象的な豚のスペアリブでは、四川と国東半島の両地で同名のついた峨嵋山を表現。遥か彼方より大陸と交流があった国東の地の誇りを、同名の山の名で表現し、誇るべき文化として大切に紡いで欲しいというメッセージを込めたのかも知れません。
土地を知り、土地の豊かさを享受する。DINING OUTが込めるメッセージとは、本来、日本人が大切に育んできた日本の文化の再構築であり、豊かさの本質と言えるのかも知れません。幻と言われた一夜を体験し、日本人としての本能が呼び覚まされた気がします。
(取材・文◎編集部)
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