野菜農家「キレド」がある幸せ<後編>【房総food記】

千葉在住ライターが、東京の友人に自慢したい、“ピーナッツだけじゃない”県内のおいしいものを気ままに紹介。房総を拠点にした「食」にまつわるあらゆるものを見つめた、飲んで・食べて・知る千葉の風土&food記です。

食べたいから育て、余すことなく楽しむ。野菜の一生を見つめる「キレド」の農業

(千葉市若葉区&四街道市)

 さて、<前編>に引き続き、今回も野菜農家「キレド」のお話です。

 妻・ケイコさんが切り盛りするカフェ「キレドベジタブルアトリエ」がある千葉市若葉区から車で10分強。やって来たのは、四街道市の新興住宅街の中にある、小高い丘の上の畑です。ここは、世界各国の珍しい品種を中心に、年間150種類ほどの野菜を育てている農家「キレド」の畑。その野菜に魅せられて県外からも宅配野菜の注文が相次ぐ人気農家です。

 うららかな春の日差しの下、農作業に精を出すクリタタカシさんが、早速、畑を案内してくれました。冬の間は閑散としていた1ヘクタールの畑は、春の訪れとともに苗植えなどが始まり、徐々に忙しくなっていきます。

野菜農家「キレド」がある幸せ<後編>【房総food記01】

こちらは北海道産品種のジャガイモ「ノーザンルビー」の畑。毎年3月上旬にジャガイモ植えイベントを、6月ごろに収穫イベントを実施している。詳細はHPを。 | 食楽web

野菜と料理を愛する農家

「僕の農業は、まず、どういう料理にしたいかを考えてから、育てる野菜を決めるんです」。
 そう言って茶目っ気たっぷりに微笑むクリタさんは「食べるために生きてる」というほどの、自他ともに認める食いしん坊。単に出荷するだけでなく、作り手である自分たちも野菜を存分に楽しんでいることが伝わります。
 最初に見せてもらったタマネギ畑では、イタリア産のトロペア品種と、ハワイ産タマネギを栽培中。「トロペアは、ネギのように、熱するととろとろになる品種です。出汁感が強いので、炒めてスープに使ったりするのがいいですね。一方、ハワイ産のものは水分が豊富なのでサラダにしてもいいし、オーブンでまるごと焼くとジュワーっとした旨味がたまりませんよ」

 どんどん飛び出すクリタさんの野菜のレシピ。見学しながらお腹が空いてくるのも、「キレド」の畑見学の特徴かもしれません。

野菜農家「キレド」がある幸せ<後編>【房総food記01】

クリタさん夫妻によるアイディア満載のレシピは、自家レシピ本にまとめられ、直営カフェ「キレドベジタブルアトリエ」にて販売中。1号目は一冊まるごとバターナッツを特集。以下続刊予定。『キレドの料理本』550円(税別)。

野菜農家「キレド」がある幸せ<後編>【房総food記01】

収穫された野菜は、直営カフェ「キレドベジタブルアトリエ」でも販売中。

4月の畑は花盛り。知られざる花芽のおいしさ

 中でも印象的だったのが、ルッコラの畑。なんと小さな花が咲いているのです!

野菜農家「キレド」がある幸せ<後編>【房総food記01】

野生的なルッコラ。写真では見えづらいが、葉っぱの下から新たな花芽がたくさん顔を出していた。

「ルッコラは、普通、葉っぱの部分しか売られていませんよね。でも、僕らはこの花芽の部分もおいしいことを知っているので、わざと一部を収穫せずに残しておいて、こうして花を咲かせているんです」
 そう言って食べさせてもらったルッコラの花芽は、初めて味わう刺激のある辛さ! 甘みと同時にくる強い辛みがクセになりそうな、野生的で濃厚な味わい。

「ルッコラも、ザーサイも、芽キャベツの仲間のプチヴェールも、みんな花芽がおいしいんです。一般的に知られている野菜の収穫時期だけに注目するのではなく、春に咲く花芽の知られざるおいしさも伝えていきたい。僕がやっているのは、どの瞬間も楽しむ“野菜の一生を見る農業”なんですよ」

野菜農家「キレド」がある幸せ<後編>【房総food記01】

こちらが4月の花の時期だけに食べられる、花芽のピタサンド。ルッコラや白菜の愛らしい花芽が“咲き乱れ”、まるでブーケのような美しさ。

 どの時期に、どの部分をどう食べるとおいしいのか。元々、何かを試すことが好きでたまらないというクリタさん。

 畑の魅力を知ってもらうために、カフェの運営やキッチンカーでのイベント出店、オリジナルの加工品開発に、市が運営する日替わりレストランでの1日シェフなど、農業にとどまらない様々な活動を行なっています。

 あえて無国籍な響きの造語「キレド」を名乗るのも、従来の農家のイメージにとどまらない活動をしていきたいという志のあらわれです。