フレンチの技が光るすべてが完璧な一軒|ラーメン ル・デッサン(島田市)

2016年10月に島田市にオープンした『ラーメン ル・デッサン』は、島田市を代表する実力店にして、激戦エリア〈中部〉でも屈指のハイレベルな一杯を繰り出す名店として知られる。
店主の増田氏は元フレンチのシェフ。2003年、東京・牛込柳町にフレンチレストラン『ル・デッサン』を開業し、10年間店主として厨房を切り盛りしたのち、店を畳んで地元・静岡県に帰還。『ル・デッサン』の屋号はそのままに『ラーメン ル・デッサン』を立ち上げ、フレンチの技法を巧みに採り入れたラーメンを提供している。
営業時間は朝7時から13時半まで。〈中部〉の“朝ラーメン”文化にならい、午後の早い時間帯に1日の営業を終えるだが、朝ラーメン文化圏に馴染みが薄い県外からも、増田店主の1杯を求め、大勢のお客さんが訪れる。
私が『ル・デッサン』を訪れた日も、11時前の段階で店の前には20名ものお客さんが長蛇の列をなしていた。客層も、男性客はもちろん、カップル、女性のグループ客、ファミリー客と様々で、同店の味の裾野の広さをまざまざと実感させられた。

レギュラー麺メニューは、「岩手県ほろほろ鳥だしのラーメン」、「鴨がら・鶏がらだしのラーメン」、「函館ホタテだしのラーメン」、「ローストした鶏がらのしょうゆラーメン」、「鶏がらとかつお・にぼしの中華そば」の、「しょうゆ」及び「塩」など、多種多様。毎日足を運び、実食メニューを変え続けても2週間は持ち堪えられるほどのバリエーションを誇る。
想像をはるかに超えるひきだしの多さに戸惑いながらも、券売機左上の商品である「岩手県ほろほろ鳥だしのしょうゆラーメン」をオーダー。提供までの待ち時間は5分程度と、驚くほどスピーディー。恭しく眼前へと供された丼を視界に捉えた瞬間、視線が丼に釘付けになった。麺線が一本たりとも乱れることなく美しく揃えられ、箸を付けるのも惜しまれるほど端整なビジュアル。
スープは、重厚で膨らみ豊かなほろほろ鳥の滋味が凝縮された、そこはかとなく“洋”を感じるフルボディの味わい。随所に導入されたフレンチの技法が味わいに奥ゆきを与え、カエシのうま味の厚みも絶妙なさじ加減。一度口を付けたら最後、レンゲを持つ手を止めることは困難だ。
また、自家製麺も、スープに勝るとも劣らない会心の出来映え。繊細な細ストレートでありながら、やや固めに茹で上げ、サクッと軽快な食感を創出することで、スープに埋没しない毅然とした存在感を演出している。
![函館ホタテだしの塩ラーメン[食楽web]](https://cdn.asagei.com/syokuraku/uploads/2025/03/20250315-ledessin05.jpg)
もちろん、トッピングにも手抜かりなし。生産者の顔が見える鮮度の高い素材が惜しげもなく使われている。同行者が注文した「函館ホタテだしの塩ラーメン」のスープも、貝柱という素材が有するうま味を極限まで活かし切った絶品だった。
卓越しているのは、味だけではない。居心地の良さが徹底的に追求された空間から、入店から退店まで一切の乱れがない接客まで、飲食店としてすべてがパーフェクト。静岡ラーメン食べ歩きの1軒目として、この店をチョイスするのは大いにアリな選択肢だと思う。
●著者プロフィール
田中一明
フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店開拓・知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンをエリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。