300余年の歴史深き『和菓子処 大和甘林堂』で鶯餅をいただく

日本伝統の和菓子といえば、やはり気になるのは代々伝わる老舗の味。
次に訪ねたのは、創業享保4年という、福井県の中でも群を抜く超老舗の『和菓子処 大和甘林堂(やまとかんりんどう)』。
その佇まいは三国湊のレトロな街並みに溶け込み、昔からの風情を連想させてくれました。
このお店が三国湊にあるのは、先ほどもお伝えしたとおり、北陸の門戸、北前船交易で賑わい、砂糖が運ばれてきていたからなんですね。
300年以上伝わる和菓子。地元産にこだわった「鶯餅」

こちらの代名詞ともいえる和菓子が「鶯餅」。約300年にわたり、今に受け継がれる名品は、砂糖に、地元特産のもち米、小豆、大豆を使って作られています。
鶯餅といえば、餡を牛皮などで包み、楕円形にしてうぐいすの形にしたシンプルな和菓子。こちらの一品は全て職人の手作りで、求肥や餡作り、うぐいす型の成形、きなこのまぶし具合に至るまで、絶妙な作業で仕上げられています。
食べてみると、その丁寧に作り上げられた工程が目に浮かぶよう。解けるような求肥に、上品あんこの甘さ、そこに芳ばしい香りのきなこが混ざり合い、とろけていく。繊細なこの味を昔の人も食べていたんだなあ……先人たちの味覚の鋭さに感嘆し、頬張る姿が蘇ってくるようでした。

こちらのお店、餡がとっても美味しいので、焼き麩に鶯餅を挟んだ最中、昔から変わらぬ製法で作られる「長崎かすてい羅」なども一緒にお土産にするといいですよ。
甘味巡りと合わせてレトロな街歩き。三国湊きたまえ通り

情緒あふれるレトロな街並みを歩くだけで、旅が楽しいものになるのはなぜでしょう。普段の街歩きとは違う、時空を超えた空気が流れているようで、心がすっと和んでいきます。
腹ごなしに和菓子屋さんからも近い、三国湊きたまえ通りを散策に。三国湊は江戸からから明治にかけて、北前船交易で隆盛を極めていたため、格子戸が連なる町家や豪商の面影などが残っているのです。

例えば、こちらの「旧岸名家」。材木商で富を成した商家で、通りに面した土間では商談が行われた様子が伺え、奥に住居、蔵などが連なっています。

急な階段を登って2階にいくと、地元ゆかりの文人サロンの面影が。こちらの主人が俳句などを趣味にしていたため、サロンが開かれていたそうなんですね。ちなみに福井生まれの文人には作家の高見順や水上勉、中野重治などがいて、文学が育まれた土地でもあったことが伺えます。
県内最古のコンクリート建物「旧森田銀行本店」

さらに、こちらの森田銀行本店。100年前に建てた鉄筋コンクリート造の建物で、国の登録有形文化財にも指定されています。現在はギャラリーやコンサートに使用されているので、洋風の味わい深い建物の風情を堪能できます。
ハンバーガーやオーベルジュ。食べ歩きも楽しいレトロな町

通りを歩いていると、街の景観をそのままに、新しいグルメも楽しめる店がちらほらと現れます。骨董店だった大正時代の建物を活用したフレンチ『S’Amuser サミュゼ』や、三国バーガーで有名な『三国湊座』、心地よい空間でスペシャルティコーヒーが楽しめる『ポルタの喫茶室』など、魅力的なお店がたくさん。

オーベルジュや、今回宿泊した町家ステイ『詰所三國』(広々としていて風情があって、まるで自分の住まいのように居心地が良かった!)など、暮らすように泊まりならゆったりと三国湊を満喫すると、普段とは違う旅をもっと色濃くしてくれます。
(撮影・文◎草地麻巳)