長ネギを乗せた理由は、ソースの味わいを引き立たせるためだった
約50年前に誕生した日本版『デニーズ』は、当初、同ブランドのアメリカ本国のメニュー展開をそのまま持ち込んで営業を開始しました。こだわりは調理オペレーション。当初の厨房機器はアメリカの『デニーズ』と全く同じものを輸入して使っていたそうです。結果的に、リアルなアメリカンフードを日本人に伝えたわけですが、それから数年後に「日本オリジナルメニュー」の考案をスタート。
理由はファミリーレストランという、小さな子どもからお年寄りまでが訪れる飲食店のニーズに合ったものを提案したいという思いによるものだったそうです。そこで考案されたのが「和風ハンバーグ」。「アメリカ人が『和風』をイメージした場合の味」をコンセプトに、醤油ベースの醤(ジャン)という調味料を加えたエキゾチックな味わいのソースを完成させました。
実はこのソースが肝で、その味を引き立たせるために「これしかない!」と採用されたのが、ソテーした長ネギでした。長ネギをソテーすることで、甘み・旨みが引き立ち、このソースの美味しさを格段に引き上げてくれたからです。
「和風ハンバーグ」=おろしが定番になった理由とは?
革新的なメニューであった『デニーズ』の「和風ハンバーグ」は、絶大な支持を得て、結果的に日本の食シーン全体にそのジャンルを広めることになりました。今回改めていただいてもやっぱり美味。濃厚なソースとハンバーグの旨みを、長ネギがしっかり持ち上げてくれます。「長ネギがないと、やっぱり物足りないだろう!」と思わせるほどの存在感です。
しかし、ここで疑問も浮かび上がります? では、いつ頃から「和風ハンバーグ」におろしが不可欠になったのか、です。筆者調べによると、ポン酢で有名なミツカンが1983年頃より『味ぽん』を鍋以外のメニューに転じるPRを積極的に行い、やがて1989年頃にポン酢を使った「おろしハンバーグ」を考案して大ヒット。飲食業界だけでなく、家庭におけるハンバーグ料理にも浸透し、今日では「和風ハンバーグといえば、おろしが乗っている」という一般的な認識が定着した、ということのようです。
この時代のニーズを受けて、『デニーズ』ではのちに「和風ハンバーグ」とは別に「おろしハンバーグ」もメニューに追加。『デニーズ』の伝説とも言える「和風ハンバーグ」とは明確な棲み分けをしながらも、この「おろしハンバーグ」も人気のメニューなのだそうです。
実は牛ひき肉だけじゃない! 僅かに鶏ひき肉も入っていた
ここまでの紹介が『デニーズ』が切り開いた「和風ハンバーグ」の変遷、そしておろしではなく長ネギが乗っていた理由ですが、最後に『デニーズ』担当者に、さらにトリビアを教えてもらいました!
「1977年以来、ずっとグランドメニューとしてご提供している『和風ハンバーグ』ですが、実はマイナーチェンジを重ねています。大幅なレシピ変更ではありませんが、より美味しくお召し上がりいただけるように何度かマイナーチェンジがありました。また、実は『和風ハンバーグ』には、大麦牛の赤身肉のひき肉を使っているのですが、ほんの少しだけ鶏肉のひき肉も混ぜています。これは、よりふっくらとした食感・味わいを楽しんでいただくためです」(『デニーズ』担当者)
他のファミリーレストランのハンバーグも美味しいですが、『デニーズ』のハンバーグにはどこか「『デニーズ』らしい味」があったのは、こういった細かいこだわりが背景にあったからだと改めて実感しました。
最後に担当者に来年迎える50周年と、さらなる未来にかける思いも聞きました。
「『デニーズ』ではこれまでに『美味しいものをお客さまにご提供する』といった基本は当然として、さらに日本で馴染みのない料理やスイーツも積極的に開発・販売してきました。常識にとらわれることなく、挑戦をやめないことは今なお商品開発の根底にあります。これまで『デニーズ』を支えてきてくださったお客さまへの感謝の気持ちを忘れることなく、これからも挑戦を恐れず、美味しい料理を通じて、お客さまに豊かなひと時をご提供できるよう全力で取り組んでまいります」(『デニーズ』担当者)
ご紹介した伝説を踏まえて、『デニーズ』の「和風ハンバーグ」と「おろしハンバーグ」をいただくと、美味しさをより深く感じることができるかも? ぜひお近くの『デニーズ』で召し上がってみてください!
(取材・文◎松田義人)