名前を聞いただけでは全然ピンとこない…。世の中にはそんな食べものが存在します。例えば少し前に流行した「マリトッツォ」。メディアにさんざん登場したこともあり、今でこそ有名になりましたが、最初のころはスイーツだかイタリアのサッカー選手の名前だかわからなかった人も多いハズ。
というのも一年ほど前、仕事関係の知人と東京・高田馬場で飲んでいた時、モヤモヤする謎の料理名を聞いたのです。彼は10年以上、高田馬場で一人暮らしをしている人でした。筆者は何の気なしに尋ねました。「高田馬場の好きなところって何ですか?」と。すると彼はこう答えました。
「うーん、ラーメン屋が多いとこですかね。あとJR山手線の発車メロディが鉄腕アトムのテーマなんで電車に乗るたびにテンションが上がります。それにミャンマー料理とかホンコンハンも食べられるし、早稲田松竹っていう名画座もあるし、スーパーも何軒かあって、意外と便利で暮らしやすいんですよ」
住みやすいのは何よりです。ただ、ここで気になるのはサラッと出てきた“ホンコンハン”なる耳馴染みのないワードです。キムタクばりの勢いで「ちょ、待てよ!」と会話を止めて根掘り葉掘り聞くべきでした。
しかしその知人はおしゃべりでした。いま大陸系の中国料理“ガチ中華”が高田馬場に勢力を拡大中であり、自分はザリガニ料理と羊の背骨の鍋にハマっているのだ…というようなことを怒涛のごとく語り続け、挙げ句に「2軒目行きましょー!」ということにもなり、ベロベロに酔っ払って、ホンコンハンのことはそのまますっかり忘れていました。
ところが、つい先日、用事があって高田馬場駅のそばを歩いていた時に、その夜の記憶が鮮明に蘇りました。答えは、とある町中華のショーウインドーの中にありました。そこに、思いがけず「ホンコンハン」を発見してしまったのです。
店のファザードには、オレンジ色の地に緑色のシブい書体で『中華料理 秀永』と書かれています。すぐに知人に「前に飲んだ時に話に出たホンコンハンとはこれですか?」とLINEで画像を送ってみました。すると速攻で返事が来て「それです!」とのこと。
なるほど、この店が「ホンコンハン」を出しているのか! 長きにわたり謎に包まれていた(というか忘れていた)料理がいきなり目の前に現れて、思わず浮足立ってしまいましたが、ちょうどお昼時だったこともあり、これ幸いと入店し、実際に食べてみることにしました。