【今訪れたいレストラン】巨匠・三國シェフ初のビストロ『Dining 33』(麻布台ヒルズ)の進化する“フレンチジャポニゼ”とは?

東京の夏を香りと食感を味わう、江戸東京野菜を使った夏のコース

アミューズの「とうもろこしのブルーテ」
アミューズの「とうもろこしのブルーテ」

 アミューズは「とうもろこしのブルーテ」。夏野菜の代表であるとうもろこしをスープ仕立てにし、その上にアーモンドのスプーマをふんわりとのせ、ジャスミン茶のジュレを下に忍ばせた一皿。とびきりの甘さと香り、3種類の食感が印象的です。

「食材を連想していたら、とうもろこし茶が思い浮かんで、そこからお茶へと発想が繋がりました。甘さに少しの苦みを添えたかったので、濃い目に抽出したジャスミン茶をジュレに。さらにパウダー状のジャスミン茶をトッピングすることで、泡が消えるたびにほんのりと香りが広がります」(津野シェフ、以下同)

「北海道函館産真つぶ貝と冬瓜のミルフィユ仕立て コンソメテール・エ・メール」
「北海道函館産真つぶ貝と冬瓜のミルフィユ仕立て コンソメテール・エ・メール」

 前菜の一品目は、スライスし火入れした冬瓜と、少し炙って同じくスライスしたつぶ貝をミルフィユ状に重ね、マスの卵をあしらっています。カツオの出汁と鶏のコンソメの合わせ出汁が香ばしさを包み込み、ムース状の酢の酸味に和の出汁の風味がしっかりと感じられる、まさにジャポニゼな一皿。

「ソースに使っている“一番出汁”は丸みのある旨味があり、フランス料理にも結構取り入れていますね。軽く香る程度の酢は目でも楽しめるようムース仕立てに。こりっとしたつぶ貝としっとりした冬瓜の対比も楽しめます」

「〆縞鯵 モロヘイヤと貝のマーブルソース コリンキーのサラダ」
「〆縞鯵 モロヘイヤと貝のマーブルソース コリンキーのサラダ」

 もう一品の前菜は、脂がのった縞鯵と二種類のソースを合わせたサラダ。貝出汁のベースに酸味を加えたドレッシングと、鮮やかなモロヘイヤのソース。ニンニクやアンチョビが加わり、コク深く濃厚ながら爽やかな味わい。さらに、塩もみしたコリンキーや海藻の歯ごたえもアクセントになっています。

「暑い夏はさっぱり召し上がっていただきたいので、酸味をしっかり効かせています。脂ののった魚には、出汁やスパイスなどを使って脂に負けない味づくりを。最後まで飽きずに楽しんでいただけるよう、食感にもとてもこだわっていて、主体の食材とは逆の食感のものを必ず組み合わせています

「フレンチなのでワインに合うよう、味にメリハリを持たせることも大切にしています」。グラスの向こうに東京タワーを望む絶景も素敵
「フランス料理なのでワインに合うよう、味にメリハリを持たせることも大切にしています」。グラスの向こうに東京タワーを望む絶景も素敵
「オマール海老のポワレ フルーツトマト ソースシヴェ」
「オマール海老のポワレ フルーツトマト ソースシヴェ」

 メインの魚料理は、ローストしたオマール海老。赤ワインベースの濃厚なソースを合わせ、上には牛乳の泡、さらにオマールのコライユ(味噌)を使ったパウダーを色合いにトッピング。シーズンのフルーツトマトを添え、海老のぷりっとした歯ざわりとソースの旨味がしっかりと感じられます。

僕にとってソースは絶対的に大事な存在で、このソースシヴェも間違いないおいしさだと思います。結構パンチが効いているので、前菜二皿はさっぱり目に仕上げ、メインに向けてギアが上がるように構成しています」

「夜景に負けない、最高の料理とサービスを届けたい」

 食材選びや料理の仕上げ方で津野シェフの軸となっているのが「フランス料理をベースにする」こと。
「仕立てや構成でも、そこがブレると全体がまとまらなくなるので常に意識しています。そのうえで、使ったことのない素材に挑戦したり、“今回はフランス産の仔牛を使ってみよう”などと自然に食材を選んでいます。フランス産の素材はやはり別格なので、ほぼ確実に取り入れていますね」

「おいしい料理に重要なのは温度。お皿もソースも提供するギリギリまで温め、冷たい料理や盛り付けに関しても同じ。そこは本当に徹底しているところです」
「おいしい料理に重要なのは温度。お皿もソースも提供するギリギリまで温め、冷たい料理や盛り付けに関しても同じ。そこは本当に徹底しているところです」

 フランス料理の魅力のひとつは、見た目の美しさや盛り付けといった、視覚的要素。同店の盛り付けには、シェフの「おいしく食べてほしい」という思いも込められています。

「僕はクラシックスタイル出身なので、料理はシンプルで、ついお皿の中央にまとめがち。でも盛り付けは立体的に美しく。例えば泡で高さを出したり、肉の骨を活かすといった演出を心がけています。さらに熱いものは熱く、冷たいものは冷たく、温度にもこだわりたい。お皿全体に散らすと温度管理が難しいので、中央に構成するのはそういう意図もあるんです」

 一度に100名以上のゲストが入ることもある規模では、スピード感も重要。しかもシェアスタイルで最高のおいしさを提供しなくてはなりませんが、津野シェフも初の試みに頭を抱えたそう。「特に困ったのがシェアだとソースが別添えになること。僕はソースで料理が完成すると思っているので、“どうすればいいんだよ”と (笑)。だからこそ、すべての料理をベストな状態で出せるよう、チーム全体で共有して温度管理と火加減を徹底しています。厨房はまさに戦場ですね」

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 絶好のロケーションと本格的なコース料理がリーズナブルに楽しめる『Dining 33』。「本当に喜んでいただけるよう、内容やバランス、おいしさの鮮度まで考え抜いて提供しているので、クオリティには絶対の自信があります。そしてこの圧巻のロケーション! だからこそ、夜景に負けないグランビストロの体験をきちんとお届けしたい」と語る津野シェフ。ぜひ一度、体験しに出かけてみてください。

絶品スイーツも。日本人にしか作れないジャポニゼが息づくフランス菓子

旬のいちごを使った「フレジエ」。木苺からじっくりと取り出した果汁を100%使用したなめらかなゼリーや、ピスタチオのクリームが見事に調和。店頭で購入可
旬のいちごを使った「フレジエ」。木苺からじっくりと取り出した果汁を100%使用したなめらかなゼリーや、ピスタチオのクリームが見事に調和。店頭で購入可

 デザートを手がけるのは、シェフパティシエの浅井拓也さん。長年、三國シェフのもとで活躍する浅井さんは、数々のコンクールで上位入賞を果たし、フランスの名だたるホテルでも経験を重ねた、実力派パティシエです。

「コースのデザートは、季節のフルーツから発想します。今の時期だと、沖縄産のパイナップルですね。そこにココナッツのパルフェやライムのグラニテなど、フレンチの要素を合わせます。フランスのフルーツは酸味が強いんですが、日本のフルーツは甘くて香りが良く、そのままで食べても本当においしい。その素材感を活かすべきだと考えています」

 レストランのアシェットデセール(プレート盛りのデザート)は撮影したいゲストが多いので、写真映えするようにボリュームを持たせつつ、軽やかさにこだわっているのだそう。

「コース最後にお出しするので見た瞬間、わっ! と盛り上がって気持ちよく食べ切れるデザートに。素材に気泡を含ませながら作るとさらっと食べられるので、バターをホイップしたり、メレンゲを使ったり。軽さはいつも大切にしていますね」

店頭にはサブレやクッキーなどの焼き菓子と、目にも美しい生菓子が揃います。低温でじっくり焼き上げたパイ生地のミルフィユや、バニラの代わりに麦茶で香り付けしたフランが人気
店頭にはサブレやクッキーなどの焼き菓子と、目にも美しい生菓子が揃います。低温でじっくり焼き上げたパイ生地のミルフィユや、バニラの代わりに麦茶で香り付けしたフランが人気

 人気のフランには麦茶で香りづけするなど、日本のフルーツや和の素材を巧みに取り入れた浅野さんならではのフランス菓子が展開されています。
「日本人に馴染みのある食材を使い、日本人にしか作れないフランス菓子を、これからも作っていきたいと思っています」

(取材・文◎松永加奈、撮影◎編集部)

●SHOP INFO

Hills House Dining 33

住:東京都港区麻布台1-3-1 麻布台ヒルズ 森JPタワー 33階
営:11:00~15:00(L.O.14:00)、18:00~23:00(L.O.22:00)
休:不定休
https://dining33-hillshouse.jp/