焼き鳥なのになぜ豚肉? 日本三大焼き鳥の街・東松山に伝わる独特すぎる「やきとり」の秘密

謎多き東松山のやきとりの正体とは?

創業1956年東松山焼き鳥の発祥のお店『焼き鳥 大松屋』
創業1956年東松山やきとりの発祥のお店『焼き鳥 大松屋』

 東松山やきとりの発祥のお店『焼き鳥 大松屋』は、東武東上線・東松山駅から徒歩10分の場所にあります。どこか地方の民宿のような雰囲気が漂う建物の1階部分がお店です。

 まず、店主の女将さんにやきとりの歴史について伺いました。

「創業は1956年。戦後間もない頃です。最初は安く手に入る白モツを屋台で提供していました。ただ、当時の白モツはなかなか噛み切れない。で、他に使えるものはないかと考えた時に、知人に豚のコメカミから頬の部分――いわゆる“カシラ”の存在を教えてもらい、これを使ったやきとりを提供するようになったんです」とのこと。

 地元では養豚が盛んで食肉センターもあり、新鮮なカシラを安く安定的に入手できたのも大きかったんだそうです。

 そして、なぜ豚肉なのに「やきとり」と呼ばれているのか。これは戦後間もない頃、豚・牛の内臓を串に刺したものを「やきとり」と呼んでいたため(一方で、鶏を焼いたものを「焼き鳥」と呼んでいた)。それが今になっても使われているそうです。

 では、どのあたりがカシラの「やきとり」の人気の理由なんでしょうか?

食べやすくするための下ごしらえも重要とのこと
食べやすくするための下ごしらえも重要とのこと

「まず、豚肉のカシラには旨みが詰まった脂がたくさん入っていて美味しいんです。柔らかい食感になるよう包丁で叩いているので食べやすく、食べごたえもある。また、豚肉につける辛味噌は、醤油・唐辛子・生姜・白味噌など10種類の素材を混ぜて作っているので、味が濃くてビールによく合うのも人気の理由ですね」

 カシラの脂×辛味噌。もう絶対ウマいやつじゃないですか……というわけで、実際にいただいてみます。

豚カシラのやきとりをいざ実食!

カウンターの目の前の焼き台から、カシラがどんどん供されます
カウンターの目の前の焼き台から、カシラがどんどん供されます

 名物のカシラ串(1本180円)は、席に着いた瞬間に自動的にオーダーが入り、問答無用で提供されます。そしてストップをかけるまで、どんどん供されるシステム。わんこそば形式ですね。

 カウンターで焼き上がりを待っていると、炭火で焼かれる香ばしいお肉の芳香が鼻をつきます。どんどん空腹が刺激されて、あぁ、もうたまりません!

“ねぎま”状態で登場するカシラ。焼きはしっかりめでおこげ部分もウマい
“ねぎま”状態で登場するカシラ。焼きはしっかりめでおこげ部分もウマい

 焼き上がったカシラは想像より大ぶり。ネギも挟まっていて実に美味しそうです。お肉にかぶりつくと、ジュワジュワッと肉汁が!

 豚バラ肉のような脂の多さで、食べごたえ抜群。しかも弾力がある割に噛み切りやすい。脂の旨みと食感をダブルで楽しめる、めちゃくちゃウマい“焼き鳥”です。

醤油・唐辛子・生姜・白味噌など10種類の素材で作る秘伝の辛味噌
醤油・唐辛子・生姜・白味噌など10種類の素材で作る秘伝の辛味噌

 続いて、東松山式やきとりの正式なお作法として、テーブルの上にドンと置かれた壺の中から辛味噌をすくい、カシラにたっぷり塗って食べてみたのですが、これまたパンチ力バツグン!

特製辛味噌との相性は言わずもがな。ウマい!
特製辛味噌との相性は言わずもがな。ウマい!

 コチュジャンの辛味を丸くしたような濃厚な味噌と脂たっぷりのカシラが口中で溶け合い、旨みが波のように押し寄せます。これまでに経験したことのない味に一気にトリコになり、あっという間に食べ尽くしてしまいました。