大竹聡さんと巡る、焼きとん酒場&ホッピー名店【1】やきとん 埼玉屋

やきとん 埼玉屋
度数20度のホワイトリカーを瓶ごと凍らせてシャーベット状にキープ。ジョッキにドボドボ入れて生ホッピーを注ぐ。飲み口は軽快そのもの。「シロ」「カシラ」「ハツ」「シャモ」と相性抜群 | 食楽web

自らを酔っ払いエッセイストと称し、酒場にまつわる多くの著書を持つ粋人・大竹聡さん。ホッピーにも一家言持つそんな大竹さんを唸らせる酒場とは!?

旨さを徹底追求する店では
モツとホッピーが大化け!

 焼きとんの店だけれども、お任せで最初に出てくるのは牛の串だ。通称アブラ。これは貴重な部位で、しかも、質の高さがひと口で分かるほどの和牛である。

「もったいねぇくらいのもんだ」

 大将自ら口にするほどの逸品の後は、大根とクレソンのサラダが客の舌を更新する。そして純粋無垢になった味覚をシロ、レバー、ハツなどの塩焼きが一気に攻めたてる。このあたりで、モツ焼きに一家言ありそうな客も無口にならざるを得ないのではないか。

 私などは、行くたびに黙り、唸り、同行者がいれば、「なぁおい、オレの言った通りだろ」と筋違いの自慢をする。それほど、旨い。

 ネタにこだわるというレベルをはるかに超えている。とにかく喰ってみてくれよ。オレが本当にうまいと思ったネタと食べ方を楽しんでくれよ。オレたち一家はそのために力を惜しまないよ……。

 大将のそんな声が聞こえてくる。

 細切りにした豚耳とキュウリの洋風和えものは、味のベースがオリーブオイル。そこへ先のレバーをつけ、バゲットにのせて貪る。

 絶品だ。感動しつつ煮込みに口をつけたら完全な洋食である。生クリームと味噌を工夫したらしいが、先の豚耳もこの煮込みも、最近になって変更が加えられている。

「いつでも努力だよな。研究、また研究。終わりはないよ」

 大将はそう言って豪快に笑う。

 でも、ここのホッピーは変わらない。度数低めのスピリッツをボトルで仕入れてシャリシャリになるまで瓶ごと凍らせる。それをベースにたっぷりの生ホッピーを注ぐスタイルだ。

 スピリッツの流氷漂うジョッキは見た目も美しい。口に含んだ時の軽さ、キレ、冷たすぎない温度。無臭。文句のつけようがない。おいしいホッピーはと聞かれて真っ先に思い出す一杯がこれだ。

●SHOP INFO

やきとん 埼玉屋

店名:やきとん 埼玉屋

住:東京都北区東十条2-5-12
TEL:03-3911-5843
営:16:00~21:00、土16:00~(開店時に入店した客のみ)
休:日・祝休 ※売り切れ次第閉店
予算/4,000円 個室/なし カード/不可

●著者プロフィール

大竹聡さん

大竹聡さん

おおたけ・さとし。酔っ払いエッセイスト。1963年東京生まれ。2002年、酔狂雑誌「酒とつまみ」を仲間内で創刊。以来、大量の酒と勝てないギャンブルにうつつを抜かす53歳。酒と酒場にまつわる著書多数。