
愛嬌のある人懐っこい性格と、ホルスタインよりも小柄な可愛らしいルックスが特徴のジャージー牛。国内での飼育頭数は全体の1%以下の約1万頭と希少な品種で、高タンパクかつ濃厚な味わいのミルクを始め、アイスやヨーグルトなどの加工品も人気を博しています。
乳牛として飼育されるジャージー牛ですが、もし雄が生まれたら一体どうなるのか? 悲しいことに、そのほとんどが生まれてすぐにソーセージに加工されたり、タダ同然で取引されるというのです。
なぜなら、ジャージーはホルスタインに比べて太りにくく、多くの日本人が好むサシの入った肉ではなく赤身肉だから。現状、食肉としての評価が低いため、市場に出回っても結果的に赤字になってしまう可能性が高いといいます。
そんな悲惨な状況を打破すべく、2017年にとあるプロジェクトが始動しました。その名も「シェフと支える放牧牛肉生産体系確立事業」。主催するのは「食」を考え、行動し、食を通じて社会貢献する団体「全日本・食学会」です。
ジャージー種やブラウンスイス種といった、肉としての利用が少ない牛を国産の牧草を飼料に放牧で育て、商品化を目指すというこの事業。果たして乳用種は新しい食肉となり得るのか? その質問に対する一つの答えを提示するため、また3年間にわたる検証の成果を発表する場として、先日キッコーマンライブキッチンにて関係者やメディアを招いての試食会が行われたのです。

料理を監修したのは、関西イタリアンの名店『ポンテベッキオ』の山根大助シェフ、京都老舗料亭『菊乃井』の三代目・村田吉弘シェフ、そしてかつて「料理の鉄人」に初代フレンチの鉄人として出演した石鍋裕シェフの3名。名だたる料理人たちの手によって、ジャージーの雄牛は誰が食べても美味しい、文句なしの一品へと変貌を遂げました。
三者三様のアイデアと調理法で、驚くほど多彩な味わいと食感、食肉としてのポテンシャルの高さを感じさせてくれたジャージー牛。どの料理にも共通していたのは、ほどよい歯応えを残した柔らかさと赤身肉ならではのさっぱりとした旨みでした。



近年、糖質制限を始めとするダイエットブームや健康志向の高まりによって、赤身肉への関心は深まるばかり。トレンドを追い風に、乳用種の雄子牛は新たなマーケットを確立することができるでしょうか?
まずは、食材を知り尽くした熟練のシェフによって、肉の美味しさを引き出し付加価値を高めていくことから。一歩一歩、地道に努力を積み重ねていくことで、食肉の未来は着実に変わっていくことでしょう。いずれ、食肉としてのジャージー牛が身近になる日が来るのも近いかもしれません。
●DATA
全日本・食学会