「相馬」を訪れ、「相馬」に親しむ、多彩で魅力的な現地ツアー

相馬を訪れ、相馬に親しむ、多彩で魅力的な現地ツアー
米の収穫や漁港見学、地元の方々とのふれあいなどで、野馬追だけにとどまらぬ相馬の魅力を紐解く | 食楽web

地域を知るにはまず訪れること。相馬に人を呼び込むさまざまな試み。

 東日本大震災で受けた大きな被害から、いま復興の途上にある福島県相馬地方。その復興の中心には、1000年以上受け継がれる伝統の行事、そして近隣住民から「殿」と呼ばれ親しまれる旧相馬藩主の子孫、相馬氏第34代・相馬行胤(そうま みちたね)さんの存在がありました。

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 地域復興の第一歩は、多くの人に「相馬」を訪れてもらい、「相馬」を知り、「相馬」を好きになってもらうこと。そのために地元の有志を中心に、相馬地方を巡るツアーなどが数多く企画されました。今回はその一例を紹介してみましょう。

誇り高き現代の侍に胸を打たれる、相馬野馬追見学ツアー。

野馬追見学ツアー
野馬追見学ツアー

 相馬を訪れ、その空気に触れてもらう。そのための行事として、やはり伝統の「相馬野馬追」は外せません。実は新型コロナウィルスの猛威により2020年、2021年の「相馬野馬追」は規模を縮小してご省略野馬追として開催されていました。それが昨年2022年、3年ぶりの通常開催となりました。野馬追にかける地元の方々の熱狂は想像に難くありません。そしてもちろん、そんなビッグイベントを見学しない手はありません。

 2022年7月23日。ツアー参加者たちは相馬に集いました。まずは出陣式の見学。この年は相馬行胤さんのご子息である言胤(としたね)さんが初陣を飾ります。15歳の言胤さんの訓示の後、出陣の盃をあげ、相馬の国歌である「相馬流れ山」を斉唱。ほら貝の音を合図に騎乗し、行列が出陣します。

 田園風景の中を勇壮に行軍する騎馬隊の姿は、これが観光客に向けたイベントではなく、脈々と続く軍事訓練に端を発する神事であることを、ツアー参加者たちに改めて印象づけました。現代の侍たちの誇り高き姿に、相馬復興への熱い思いも重ねながら、その雄姿を目に焼き付けました。

 手打ちそばや地元農家が生産した米で握ったおにぎりの昼食、地元の肉、魚、野菜、そして酒で盛り上がった夕食、懇親会。ともに多くの参加者たちにとって忘れがたい経験となったようです。

「打鮑、勝栗、昆布」や鰹など、縁起物が並ぶ出陣の日の朝の食事(食楽web)
「打鮑、勝栗、昆布」や鰹など、縁起物が並ぶ出陣の日の朝の食事(食楽web)

馬と甲冑に囲まれた相馬の日常にふれる旅。

 野馬追という相馬の“特別”に触れた見学ツアー。次に気になるのは、相馬の日常です。野馬追に参加したあの侍たちは、日頃どんな生活をしているのか。その謎に迫るツアーも開催されました。「馬と甲冑ツアー」と銘打ち、相馬の日常、馬と甲冑のある生活を巡るこのツアーにも、多くの方々が参加しました。

 南相馬市博物館で歴史に触れ、相馬野馬追に参加する引退した競走馬たちの厩舎を見学し、地元の方々とふれあいながら理解を深めた参加者たち。その後は、実際に馬に触れる乗馬コースと、甲冑や武具の修繕作業を見学する甲冑コースに分かれ、相馬をめぐりました。

手作り餃子や郷土料理で改めて知る相馬の美味。

相馬の食材たっぷりで仕上げた餃子
相馬の食材たっぷりで仕上げた餃子

 もちろん野馬追や甲冑以外にも相馬の魅力はいろいろ。とくに自然に育まれる山海の幸は、相馬の豊かさを象徴する名物です。そんな豊かさにふれるツアーも企画されました。

 たとえば「相馬の食材ハンティング&餃子作り」は、「ガチ中華」の代名詞、味坊を立ち上げたオーナーの梁さんや、南相馬市出身のフードプランナー桑折敦子さんと旬の食材を巡ったツアー。そのまま食べれば十分おいしい食材に恵まれるあまり、凝った名物料理が少ない相馬。その相馬の食材を一流料理人が調理するとどうなるか、を紐解く企画。

 漁港、農園、養鶏場などを巡り食材を集めたのち、プロの指導のもとみんなで餃子作り。仕入れから包みまで参加者全員で手掛けた餃子を囲んだ食卓は、かけがえのない楽しい時間となりました。

名人の指導のもと食べられないキノコについても学んだ
名人の指導のもと食べられないキノコについても学んだ

 餃子作りのコンセプトとは反対に、郷土料理を味わい、未来へと繋げるツアーも好評でした。キノコ採りの名人とともに山を歩いてキノコを探す一行。しかし、原発事故の影響により、キノコはいまなお出荷制限がかけられており、放射線量検査の結果によっては人にあげることもできません。食べる楽しみ、配る楽しみを奪われて、キノコを採る人もずいぶんと減ったそう。それでも名人のお宅でごちそうになった食事や、道々で伺った貴重な話は、何よりの財産となりました。

 さまざまな角度から相馬に触れ、相馬に親しんだツアー。繰り返し訪れるリピーターが多いという事実からも、その楽しさが伝わるのではないでしょうか。