現役トレーナーに聞く筋肉メシ! ジンギスカンをいくら食べても太らないって本当?

現役トレーナーに聞く筋肉メシ。ジンギスカンは太らない? 羊肉を上手く活用する方法とは?
食楽web

美味しいものが食べたい。でも体型のことも気になる。そんな人のために、トレーナーの宮本健太郎先生がレクチャーする「筋肉メシ」。今回のテーマは太りにくいと言われる「ジンギスカン」です。

 ジンギスカンといえば、北海道の郷土料理の1つ。羊肉を使った焼肉で、生後2年以上の成羊肉のマトンや生後1年未満の仔羊肉のラムを使用します。

 このジンギスカン料理=羊肉。なぜかまことしやかに「太らない」と囁かれています。その理由としてよく聞くのが下の2つ。

 1)脂肪燃焼効果の高い「カルニチン」という成分が羊肉に多く含まれているから
 2)羊肉の脂は融点(溶ける温度)が高いので体に吸収されにくいから

 しかし、本当にそれでジンギスカンは太らないのでしょうか? 検証していきたいと思います。

ヘルシーと言われる羊肉ですが……
ヘルシーと言われる羊肉ですが……

カルニチン摂取の疑惑

 脂肪燃焼効果の高いと言われる「カルニチン」。この成分は、体内で、脂肪をエネルギーに変える「運搬役」だとイメージしてください。

「カルニチン」は、アミノ酸由来の成分で、体内で必要量を合成されているので、外部からの摂取が必要となる成分ではありません。ただ、脂肪をエネルギーに変えてくれる「運搬役」が多ければ多いほど、より脂肪をエネルギーに変えることができる、という考えのもと積極的に外部から摂ろうとする“カルニチンダイエット”というものがあります。だから、体脂肪の燃焼促進を期待した「カルニチン」サプリメントが多数販売されているわけです。

 さて、その「カルニチン」のサプリメントは、世界的に様々な研究がされており、最も効果が出るカルニチンの1日の摂取推奨量は500~1,000mgだそうです。それが本当だと仮定して、その量を羊肉から摂取すると仮定しましょう。

 推奨量の真ん中あたりの800mgのカルニチンを羊肉から摂ろうとたら、いったいどれだけ食べればいいのか。

 羊肉100gあたりのカルニチン量は、生後1年未満の「ラム肉」なら80mg。生後2年以上の「マトン」なら210mg。つまり、脂肪燃料効果を期待するために800mgのカルニチンを摂ろうとすると、単純計算で、ラム肉は約1kg、マトンは約400gも食べなくてはいけないことになります。下記の成分表をじっくり見てください。

 ラム肉を1kg食べたら2,270kcal、マトンを400g食べたら944kcalになります。体脂肪燃焼を狙ったはずなのに、どう考えても1食で完全にカロリーオーバーになります。

融点が高いと脂は吸収されない疑惑

 続いて融点の問題です。

 融点とは固体が液体になり始める時の温度のことです。今回の融点は、ラムの脂質が液体に溶ける温度のこと。ラム肉は鶏や豚よりもこの融点が高く約44℃と言われています。

 人間の体温が平均36.5℃ですから、それより融点の高い羊肉の脂は人間の体内で溶けにくいため、ラム肉の脂は吸収されにくくそのまま体外に出てしまう。だから太りにくい、という理論です。

 確かにそれっぽい話ですが、これも大間違い。

 脂質が消化吸収されるのは、膵臓から分泌される「リパーゼ」という消化酵素によって分解されるからです。酵素が脂質を分解するのですから、温度も融点もへったくれもありません。人間の体はそんな簡単な構造ではないのです。それに、にジンギスカンでは羊肉を44℃以上に焼いて食べていますしね(笑)。そもそもおかしい話だと思うべきなのです。

 つまり融点が高かろうが低かろうが関係ないとしたら、やはり食べた脂肪の量が多ければ多いほど太るってこと。

羊肉は太らないなんて真っ赤な嘘ですが、でも!

 ジンギスカン=羊肉が太らないというのは、大きな誤解だということがご理解いただけたでしょうか。

 ただし、ジンギスカンは美味しいです。たんぱく質もしっかりと摂取できますし、野菜もたくさん食べられます。そして何より、みんなと食べるので楽しく食べられる。これは、トレーナーの私から言わせると、1回の食事の栄養バランスとして最高の食事内容なんです。

 ですから、「ジンギスカン=太らない料理」などといった誤解はしっかりと解いた上で、あえて美味しく楽しく食べて欲しいと思っているんです。

 もしたくさん食べたいというならば、ラム肉よりマトン。同じカロリーでもカルニチンをたくさん摂取できることは覚えておいてもいいでしょう。

 ただ、最も大事なことをお伝えしておきたいんです。それは、ラムでもマトンでも、さらに言えば焼肉の牛肉でも。「食べ物に“太らない”というマジックは一切ない」ということです。

 こうしたメディア情報に踊らされて、同じ食材ばかり食べてみたり、インスタやYouTubeにアップされているようなメガ盛りすぎる量を面白がって食べるのは、どう考えても体に良いわけがありません。摂ったカロリーは何であれ体に蓄積され、それが積もり積もって、健康か不健康かといった答えが出るんです。食事と運動はセット。そういう意識を持って“楽しい食事”を心がけてください。

(取材・文◎土原亜子)

●お話を聞いた方

宮本健太郎

宮本健太郎

『エベレストフィットネス』代表。日本体育大学卒 第一種高等学校教諭(保健体育)。全米ストレングス&コンディショニングスペシャリスト。NSCA認定パーソナルトレーナー。大学生時代よりプロボクシングでの競技生活をスタート。競技引退後は某有名ボクシングジムのチーフトレーナーとして後進の育成に従事し、2011年から2018年3月までこの職を勤めトレーナーとしてのスキルを磨く。今季夏より独立し、ボクシング&フィットネスのジム『エベレストフィットネス東高円寺』を経営。
https://everest-fitness.jp