1合か2合か。酒好きの徳利事情に優しく寄り添う草花かな。【酒器も肴のうち】

お酒をつぐ器、お酒を飲む器。酒器に思いを巡らせると、気になってくるあの人のお気に入りや、あのお店のセレクション。酒器を愛でながら一献傾けるのが好きなライターによる酒器折々、酒器こもごも。

1合か2合か。酒好きの徳利事情に優しく寄り添う草花かな。【酒器も肴のうち】
食楽web

 草花が描かれた2種類の酒器セット。花を扱う職業柄、無意識に揃えてしまうのだろうか。そんな想像をしていたら違っていた。少々肩透かしをくらっての『酒器も肴のうち』第45献。

 ご登場いただいたのは「Atelier はなえがお」を主宰し、自宅でフラワーアレンジメントのレッスンをするかたわら、ハンドメイドのコサージュなどのオーダーギフトも手がける芳賀尚枝さん。

「九谷色絵の2合徳利とぐい呑のセットは実家にあったものです。父が好んで使っていたのを子どもながらに記憶しています」(芳賀さん・以下同)

 2合徳利とあってキャンバスが広いせいか、筆使いがひときわおおらかに見える。深みのある色彩で描かれた華やかな和花はどこかしら古風で花鳥風月の趣き。

「ホームパーティをすることも多くて、日本酒好きのゲストがいるときは重宝します。1合でお出ししてもすぐ空いちゃうので。たっぷり入って実用的というだけで実家から持ってきたものの、詳しいことは不明です。ただ、抹茶茶碗なども造っている窯元とか…?」

 茶の湯の要素が見え隠れするとついつい「見る人が見たら…」と思わずにはいられないのだが、そんなことよりお父さん愛用の酒器が娘の手に渡って現役選手として大活躍している。立派な由緒がなくても(いや、あったとしても)その話の方がよほど味わい深く、すでにいい肴を見つけた気分だ。

 さて、もうひとつはシンプルな白磁の酒器セット。有田焼の名窯香蘭社の人気シリーズ「オーキッドレース」のものだと気づく人もいるだろう。白磁の美しい磁肌に蘭が描かれ、気品が感じられる。

「当時勤めていた会社の先輩から結婚祝いでいただいたもの。お酒好きな女性で、社内の“日本酒の会”でもご一緒でした。社員が出張で買ってきた日本酒をみんなで飲むというだけの会なんですが(笑)。

 いただいて何年も経ちますが、実はあまり使っていませんでした。というのも、我が家のホームパーティではいろんなお酒を気軽に楽しむというスタンスなのと、お子さんも交えての大所帯の集まりになることもあるので、酒器に限らず、グラスは万が一割れても悔やまないものが多い気がします。どちらかというと質より量で揃えた感じ」

 となると、大切な酒器は特別だから頻用しないということだろうか。それもちょっとわかる気がするけれど…。

「そう思っていたんですが、やっぱり器は使ってこそと思うようになって、最近は今まで大事に眠らせていた時間を挽回するかのように使うようになりました。小さくて繊細で品のある白磁の猪口は女性好みですよね。ただ、1合徳利はやっぱりあっという間に空いちゃうので2合徳利の方が活躍しています」

 どれだけ酒豪仲間がいるのかと思いつつ、確かに1合徳利は調子がいいときはあっという間に空っぽになる。その感覚には強く同意する筆者なのであった。

●INFORMATION

Atelier はなえがお

ゆとりと癒しと笑顔のある生活を提案するフラワーアレンジメント教室。コサージュや手づくり雑貨などの販売も行う。ウエディングブーケ、母の日ギフトなど、各種イベントに応じたオーダーも可能。

●取材・文/笹森ゆうみ

ライター。蕎麦が好きで蕎麦屋に通っているうちに日本酒に目覚め、同時にそば猪口と酒器の魅力にとりつかれる。お酒、茶道、着物、手仕事、現代アートなど、趣味と暮らしに特化したコンテンツを得意とする。