暑い国・台湾生まれのウイスキー「KAVALAN」。蒸留所でわかった世界のウイスキーファンを虜にする理由

亜熱帯エリア・台湾のウイスキー「KAVALAN」の蒸留所に行ってわかった世界のウイスキーファンを虜にする理由
台湾・宜蘭県発のウイスキーブランド「KAVALAN」。世界中のウイスキーアワードを続々と受賞し続ける名品です

●台湾発のウイスキー「KAVALAN」の蒸留所に行ってわかった世界から注目を集める理由

 今から17年前の2008年、台湾で突如ウイスキーブランドが誕生しました。その名は「KAVALAN」。当時、筆者は年間10回以上台湾に通っていた時期で、「KAVALAN」誕生のニュースもリアルタイムで知りました。

 当時は、「何かクラフトリカー的なものかな?」と思いつつ、その価格を見るとかなり高額。700mlのウイスキーが1本あたり日本円で5千円前後もする代物でした。正直「どれだけこだわった製法のクラフトリカーでも、こんな高額なものはウケないんじゃないか」と率直に思った記憶があります。

 しかし、「KAVALAN」が後に世界に知れ渡るやいなや、続々と高評価を得て、今日までに数百回とも言われるほど名誉あるウイスキーアワードを受賞。その品質と味わいは、世界中の既存高級ウイスキーブランドに勝るとも劣らぬ逸品として、絶大な支持へとつながっていきました。

 というわけで今回、改めて台湾・宜蘭県にある「KAVALAN」の蒸留所に行ってきました。誕生から20年にも満たない「KAVALAN」が、ここまでの高評価を得た理由と、その中身についてご紹介します。

地元の雪山が与えてくれる天然水が「KAVALAN」の源

台湾・宜蘭県にある「KAVALAN」の蒸留所の見学スペース。繊細な蒸留工程を学ぶことができる
台湾・宜蘭県にある「KAVALAN」の蒸留所の見学スペース。繊細な蒸留工程を学ぶことができる

「KAVALAN」の蒸留所があるのは台北の東に位置する宜蘭県。ここを拠点に、今から19年前の2005年の大晦日に蒸留所を設立。翌年2006年からすぐにウイスキーづくりが始まりました。

 地元の雪山山脈の美しい天然水を使用し、製造工程すべてを地元あるいは台湾国内で行うことにこだわっており、蒸留器から最初の蒸留酒が出始めたのはわずか3ヶ月ほど。ここから試行錯誤を繰り返しながら、約2年後の2008年に「KAVALAN」が完成。程なくして市販されるようになりました。

 その名の由来は、地元の原住民族・カバラン族の名前から。カバラン族の間では、この「KAVALAN」という言葉は「平原の人々」という意味もあり、「KAVALAN」の蒸留所がある平原エリアともまさに合致する名称でもありました。

台湾の「暑い」気候を逆手に取った独自工程

いわゆる「天使の取り分」が多いことも「KAVALAN」が高価になっている理由の一つ
いわゆる「天使の取り分」が多いことも「KAVALAN」が高価になっている理由の一つ

 一般にウイスキーづくりが盛んな国は、スコットランドをはじめ冷涼な気候のところばかり。蒸留と濾過の工程などで、水分・アルコール分を分離・濃縮させるために冷やす必要があるからです。その点、台湾は暑い国なので、従来の考え方で言えばウイスキーづくりにはまったく不向きな地域でした。

 しかし、「KAVALAN」は逆に台湾の“暑さ”を利用し、熟成などの工程に費やす時間を大幅短縮。ウイスキーづくりの専門用語「天使の取り分」(熟成中に、水分・アルコール分が蒸発してしまう分量。最終的に『酒』として扱える量が少なくなる)は、暑さのせいで一般的なウイスキーよりはるかに多くなりますが、そのぶん上品なコク、旨みある味わいに仕上げることができると言われています。

「KAVALAN」によって台湾が「無視できない国」に

「KAVALAN」蒸留所にはこれら複数の銘柄を試飲できるスペースも
「KAVALAN」蒸留所にはこれら複数の銘柄を試飲できるスペースも

 こうした独自の工程からどうしても高額になってしまう「KAVALAN」。冒頭で触れた誕生時に筆者が抱いた「高い」という感想と同様の意見を当時よく耳にしたものですが、これはあくまでもウイスキーをよく知らない一般素人の意見でした。

「KAVALAN」ブランドの第一号の「カバラン クラシック シングルモルトウイスキー」(2008年)、「カバラン コンサートマスター シングルモルトウイスキー」(2009年)が続々と発売されると、その味わい深さを知った世界中のウイスキーファンが高評価。2010年、イギリスで行われたウイスキーテイスティング大会で優勝して以来、続々と世界的な賞を総なめにしていきました。

 また、2010年発行の「モルト・ウイスキー・イヤー・ブック」掲載のウイスキー産地に、台湾が初めて認証されました。ヨーロッパの人たちも、「KAVALAN」をきっかけに台湾を「無視できない国」として認識し始めたわけです。

フルーティな香りの良さと濃厚なクリーミーな口当たり

実際に「KAVALAN」を飲んでみましょう
実際に「KAVALAN」を飲んでみましょう

「KAVALAN」は以降、複数の銘柄を続々とリリースし今日に至りますが、共通する味わいの特徴はフルーティな香りの良さと、濃厚で丸くクリーミーな口当たり。

 さらに、ほのかに感じるスパイシーさや酸味もなかなか奥ゆかしく、これこそが「唯一無二の台湾にしかできない良質のウイスキー」として世界中を魅了する理由もわかる気がします。

角のない柔らかい口当たりが実に上品
角のない柔らかい口当たりが実に上品

「KAVALAN」のこの味わいを実現する工程は、まず麦芽を粉砕・糖化させ、発酵過程へ。酵母が糖をアルコールへと変化させる独自開発の工程を経て蒸留。オーク樽の中でじっくりと熟成させ、銘柄ごとに異なるブレンドを経て完成させていきます。

今日では複数の銘柄をラインナップ[食楽web]
今日では複数の銘柄をラインナップ[食楽web]

 言葉で解説すればザックリこの流れですが、筆者が台湾・宜蘭県の蒸留所を見学した際は、各工程ともかなり繊細なフローを経て、「KAVALAN」完成に至っているように感じました。

5千円前後はむしろ安い? 特別な日にいただきたい「KAVALAN」

「KAVALAN」入門編にハイボールやジントニックもオススメ!
「KAVALAN」入門編にハイボールやジントニックもオススメ!

 世界中の高評価と、その繊細なウイスキーづくりの工程を持ってすれば、当初筆者が抱いた「高い」というイメージが間違っていたことに気づきました。これだけ特別で奥深い味わいを見せるウイスキーであれば、むしろ「5千円前後でも安いかもしれない」と考えるようになりました。

 もちろん、庶民にとって普段からガブガブ飲めるものではありませんが、特別な日、または特別な人との大切な時間にこそいただきたいウイスキーと言えるでしょう。

 なお、普段づかい用としては「KAVALAN」を使ったハイボール、ジントニックなども市販されています。入門編として、こういったものから「KAVALAN」に親しむのも良いと思います。

 アジア発にして、世界中を魅了し続ける「KAVALAN」。強い台湾ファンの筆者にとっても、勝手に誇らしげにさえ思えてしまう名ブランドです。

(取材・文◎松田義人(deco))

●SHOP INFO
金車噶瑪蘭威士忌酒廠(カバランウイスキー蒸留所)

住:台湾・宜蘭縣員山鄉員山路2段326號
※見学希望(日本語可・無料)の方は下記サイトよりお申し込みを
https://www.kavalanwhisky.com/jp