ニシンの切り込みから支那そば、最中まで。酒呑みの好むアテに偽りなし。【酒器も肴のうち】

お酒をつぐ器、お酒を飲む器。酒器に思いを巡らせると、気になってくるあの人のお気に入りや、あのお店のセレクション。酒器を愛でながら一献傾けるのが好きなライターによる酒器折々、酒器こもごも。

ニシンの切り込みから支那そば、最中まで。酒呑みの好むアテに偽りなし。【酒器も肴のうち】
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『酒器も肴のうち』第36献。ご登場いただいたのは青森県黒石市で観光りんご農園を営む佐藤国雄さん。切子もどきだと笑いながら見せてくれた愛用のグラスは奥さまが買ってきたものだそう。

「いま晩酌で使っているのはコレ。ちょこちょこ注ぎ足して飲むのは面倒だから大きめがいい。居酒屋で日本酒を飲むときもぐい呑よりはビール用のコップくらいがちょうどいい。なぜかその方が美味しく感じる」(佐藤さん・以下同)

 酒器は使い慣れたものがあればたくさんいらない。割れたらまた新しいのを奥さまが用意するという。現在愛用しているのも、かれこれ何代目かなど数えたことがないそうだ。

 晩酌はビールに始まって焼酎ときどき日本酒。若い頃からいろんなお酒をたしなんできたという佐藤さん。「やっぱり日本酒が一番好き。ただし、お医者さんに注意されない程度に(笑)」。

 日本酒に話が及ぶと、ときどき数値的問題で苦笑いする方も多い。酒は百薬の長、されど、ほどほどに。お酒好きの人生の先輩の言葉がすーっと耳に入ってくる。

「最近はするする飲めるお酒が多くなった気がします。個人的にはなにを飲んでいるか味がはっきりわかるお酒が好きですね。日本酒ならしっかり米の味がするもの。あと、加水していないものの方がいい。

 以前、ごぼう焼酎とかにんにく焼酎というのがあって飲んでみたけれど、ごぼうは土の香りが強いし、にんにくはにんにくそのもの! 好みかそうでないかはさておき、なにでできているか、なにを飲んでいるかはっきりしているからそれはそれでいいと思う」

 なんとなく想像できそうな味ではあるが実はそれ以上かもしれない。機会があれば試しに一度は口にしてみたいと思わせる話ぶり。「講釈はあまりない。ただお酒が好きなだけですよ」という佐藤さんのお酒語りに耳を傾けていると無性にお酒が飲みたくなるのはなぜだろう。その流れで好きな酒のアテを聞くと「ニシンの切り込み」と即答。

 ニシンの切り込みとは新鮮なニシンを細切りにし、塩と米麹で漬け込んだ郷土料理で塩辛の一種。なぜ切り込みと言うかは知らないが、酒の肴の代表格だ。「それから…」と、切り込みに続いて塩っ辛いアテが出ると思っていたら意外にも地元の老舗和菓子店の名前が飛び出した。

「まつむらの最中もいい。ちょっとしょっぱい餡がとても酒に合う。あとは羊羹をアテに飲むときもある。煮干しだしの支那そばで飲むのもいい。支那そばで2合は飲める。そのときは安い酒で十分」

「松葉堂 まつむら」の最中(こみせ最中)。白あんに小豆をまぜ、塩味をきかせた別称「塩もなか」は、確かにお酒のアテにもいける塩加減! 甘さの中にも塩気がしっかり感じられ、クセになる。
「松葉堂 まつむら」の最中(こみせ最中)。白あんに小豆をまぜ、塩味をきかせた別称「塩もなか」は、確かにお酒のアテにもいける塩加減! 甘さの中にも塩気がしっかり感じられ、クセになる。

 昨今の洒落たペアリングの遥か向こうに愛すべき酒好きの姿を見た気がした。取材を終えたその足で和菓子店に向かったのは言うまでもない。

●DATA

黒石観光りんご園「りんごの国」

黒石観光りんご園「りんごの国」

TEL:0172-52-8898
Facebook >>
https://www.facebook.com/黒石観光りんご園-409990442425533/
津軽平野と岩木山を一望するりんご農園。開園期間中(9月上旬~11月上旬)は新鮮なりんごのもぎ取り体験が楽しめる。りんごの地方発送もOK。品種の異なる6種の100%無添加りんごジュースセット(1L瓶6本)も人気。

●著者プロフィール

取材・文/笹森ゆうみ

ライター。蕎麦が好きで蕎麦屋に通っているうちに日本酒に目覚め、同時にそば猪口と酒器の魅力にとりつかれる。お酒、茶道、着物、手仕事、現代アートなど、趣味と暮らしに特化したコンテンツを得意とする。