深すぎるパエリア・ワールドに潜入!
小さなお店の扉を開けると、ローズマリーやサフランの香り、お肉や魚介の香ばしい匂いが立ち込めている。鍋を揺らしながら「ようこそ!」と笑顔で出迎えてくれたオーナーシェフ川口勇樹さん。この人こそが優勝者のパエリア職人である。
事前に、受賞した「パエリア バレンシアーナ」と、この店の看板料理「魚介たっぷりanocadoパエリア」の2種類を作っていただくようにお願いした。前者はお店の通常メニューでははないが、2つの味を食べ比べたいと特別に作っていただいていた。


まずは、2つを食べてみて。「パエリアバレンシアーナ」は、今まで食べたパエリアとは全然違って、味の説明がしにくい。一方、「魚介のパエリア」は、これまでに食べたことがあるパエリアの中で過去最高!と思えるほどうまい。魚介のエキスが、程よい柔らかさのお米からはっきりと感じられた。
だが、正直言って、筆者は前者の方が断然、好きだ。お米に染みている表現できない旨みや香り、さらにお米1粒1粒、固すぎず、柔らかすぎない具合。そして、もっと、何か決定的な違いがあるのだが、これがうまく言えない。
なので、その前に、競技でどのような基準で審査され、何がポイントかを聞いてみた。
「シークレットで、審査員が、味・見た目・お焦げ・食感・色の5つを加点方式で評価します。その際、1番大事なポイントは、バレンシアにおけるパエリア文化をよく知っておかなければ高得点にはつながらないということです」

パエリアはそもそもお米の料理だ。本来、お米を味わうものであり、具を味わうものではないということを知っておかなければならないと川口さんは言う。
「具の味や香りがお米にきちんと移っていることが非常に大事なのです。日本人は、パエリアを食べる時、魚介や肉などの具材も楽しみますが、バレンシアの人たちにとっては、具材よりもお米が何より大切。具材の旨みがきちんとお米に移動しているかどうかに注目し、楽しむんです」
これは、かなり驚きの食文化の違いである。さらに、
「お米の食感も、日本では少し芯が残ったアルデンテがいいと言いますが、そんな状態で出したら、できてないじゃないかと、競技においては0点です。固すぎず、柔からすぎず、という絶妙な加減が重要になってきます」