食感ゴロゴロのニクイ餃子に出会う

人ひとり入ればいっぱいの約1坪の厨房で、店主・矢部淳さんは黙々と餃子を焼いていた。どこにでもあるフツーのボウルで肉餡をコネコネ仕込み、これまた家庭用のフライパンを使ってジューッと焼き上げる。まったくもってウチの台所と変わらないのに、矢部さんの「にく餃子」(焼)をいただいた瞬間、そのパーフェクトさにただただ頭を垂れるばかりだった。
そもそも焼餃子というのは、重箱の隅をつつくような小言を言われがちな料理である。皮の焼き具合に始まり、肉餡の味や食感、肉汁の具合、皮と餡のバランス、さらに油の量etc。作り手としては、たとえ肉餡の仕込みまではマニュアル通りやったつもりでも、その後の工程でさまざまなミスポイントが多く、一瞬でも気を抜いたら、たちまち失敗する。非常に恐ろしい料理だという印象がある。
しかし、「やまよし」さんの餃子は、理想的なものだった。
地味なルックスだが、噛んだ瞬間、薄い皮はあくまでパリッと、中の肉餡はむっちり、ゴロゴロとした食感を主張。そのはっきりとした存在感たるや。そしてゴロゴロの肉餡の隙間から、肉汁がジュワ~ッと染み出てくる。身もだえするほど旨い。しかも、この中身で勝負する潔さ、すごく好きだ!
肉餡のゴロゴロ感の秘密とは?
ところで、このゴロゴロ感は一体何だろう? 直接、矢部さんに聞いてみることにした。
「にく餃子の場合、豚ひきを粗挽きにしていることもありますが、一番のポイントは、レンコンを刻んで入れているところです。僕自身、食感がしっかりしているのが好きなので、餃子の種類ごとに、具材や大きさで、食感を大事にしています」とのこと。
おお、レンコンを餃子に使うとは!


まだまだ感動には続きがある。次にいただいたのは、「しそ餃子」。こちらは水餃子か焼餃子を選べるが、水餃子をセレクト。
プルルンとした皮を箸で捕まえて、ハフハフ噛めば、もちもちの皮からこちらもゴロゴロ感あふれる肉餡が出てきて、シソの香りがふわりと鼻をくすぐる。にく餃子より、かなりあっさり、さっぱり。こりゃ、いくつでも食べられるぞ…。
「にく餃子は豚肉ですが、シソ餃子は鶏の胸肉ともも肉をミックスして粗挽きに。玉ねぎを若干、大きめにみじん切りしてこちらも食感よくしています」と矢部さん。

最後にいただいたのは、メニューを見た時から目をつけていた「ラムパクチー餃子」(焼)。
ラム、パクチーといえば、どちらもブームではあるが、「ちょっと苦手」と敬遠する人も多い食材だ。単刀直入に「これ、人気あるんですか?」と聞いてみた。
「好きな人に食べてもらえばいいやと思って作ったメニューですが、これが、にく餃子の次に人気メニューになり、正直、僕も驚いています。ラムが苦手だったという人もいるのですが、これを食べてみて大丈夫になったと言ってくれる人もいて、すごく嬉しいです」。
おそらく勝因は、ふんわりと香るカレーのようなスパイス。配合はオリジナルだというが、「スーパーですぐ手に入るものですよ」とにっこり。
この矢部さん流の“ガラムマサラ”によって、食べやすさと、ラムの旨みが際立ち、クセになる。たっぷりかかったパクチーに餃子をまみれさせれば、風が通り抜けるように爽やか。
