
「ホイス」って飲んだことありますか? と聞いて、わかる人はかなりの大衆居酒屋通。ほとんどの人は「ホイスって何?」「ホイス・グレーシー?」など、聞いたことも見たこともないリアクションをとってしまうと思います。
一部では「幻の酒」とも呼ばれているホイス。一体その正体は? まさかグレーシー一族の作るブラジルの酒かっ? など疑問をいろいろ抱きつつ、恵比寿駅から徒歩1分、赤提灯が目印の『田吾作』へ向かいました。

一歩店の中に入ると、え? おしゃれタウン恵比寿の駅前エリアにこんな昭和な店がっ? 年代を感じる大きな木のカウンターや飴色になった壁や札など、古き良き雰囲気が漂っています。奥にあるテーブルには信楽焼のタヌキも。恵比寿というより、新橋や上野にありそうな雰囲気です。

席につくなりさっそくホイスを注文。出てきたのは、琥珀色の炭酸入りドリンクです。「ホイスはね、平たく言うと割りもの。ノンアルコールです。ウチでは甲類焼酎とホイスを混ぜたものを炭酸で割って出しているんですよ」と店主。
そもそもホイスは、昭和30年代、ウィスキーやビールが高い時代に、安い焼酎でもウィスキー気分が味わえるように作られたもので、ウィスキーの炭酸割り“ハイボール”の代用品だったとのこと。「だからね、名前も、ウィスキー、ホイスキー、ホイス、ってね」と店主。えっ! まさかのダジャレ系??

そもそもホイスの原料って?「薬草や漢方だね。ほら、昔はお酒の質が悪かったでしょ、胃薬になるような中身なんだよ」。みかんの皮「陳皮」やゴンズランゴという木の皮などが材料に入っているとのこと。それなら、たくさん飲んでも悪酔いしないかも? ちょっと期待してしまいます。
いざ飲んでみると、クセが全くない。お酒を飲んでいる感覚がない、さっぱりとした口当たり。ジンジャーエールの生姜のクセがなくなった感じ? 甘くなく、苦くなく、そしてスッキリ。これ、気づかずにガブガブ飲めちゃうお酒じゃないですかっ!
「どんな料理にも合うのがホイスのいいところ。つまみを選ばないんだよ」
と店主。それならば、ということで、田吾作イチオシの料理を注文です。

まずは店の看板メニューでもある串ものから。野菜も含め約15種の串はオール1串145円。塩、タレ、味噌から味を選べます。人気はカシラ、レバー、タン、シロが四天王とのこと。今回は塩で食べましたが、ホイスがスッキリサッパリ味なので、味噌やタレなど、しっかりした味付けのものでも相性が良さそうです。

そして、先代のオーナーが山形出身だったことから、昔から愛され続けている山菜も注文。ワラビの上にはショウガが乗っていて、こちらもサッパリ、スッキリしたおいしさです。

ということで、串をほおばり、「ホイス」を飲んで、ワラビをつまんで、また「ホイス」を飲んで、とスイスイ食べて飲んでしまう黄金のバランス。お酒を飲んでいる感覚というより、スッキリした飲み物を飲みつつ食べている感覚なのがヤバい。でも、料理のじゃまをしない味だからついつい食欲がアップします。チビチビ飲むというより、スカッとゴクゴク、パクパク。嗚呼……危険なペース配分、スピード感覚。飲めない人でもハイペースで飲んでしまいそうです。

なぜホイスが幻の酒と呼ばれるのか、それは、港区白金にある『後藤商店』だけが作っているもので、取り扱いのあるお店が都内でも少ないため。えっ? ホイスってシロガネーゼだったの!?
『田吾作』は50年近くの付き合いがあり、「扱うようになったきっかけ? それは先代の頃だからわからないな~。でも、ウチといえば“ホイス”だねぇ。これがないとウチの店は考えられないよ」。とのこと。来店するお客さんのほとんどがホイスを注文するそうです。
「ホイス」が1杯425円で、串3本だと435円。うん、センベロだってオッケー。恵比寿に通勤していたら、毎晩仕事かえりにフラっと寄っちゃうかも。

「恵比寿でこういう感じの店は少ないからねぇ。昭和の雰囲気たっぷりの中でホイスを楽しんでよ」と微笑む店主。ハイボールより飲みやすく、どんな酒の肴にも合い、口の中をさっぱりさせてくれるので、常連さんの中には、5杯、10杯と頼む人もいるそう。わかる気がします。
恵比寿なのに気後れしない、どこかあたたかい雰囲気の店で味わう、昭和の酒ホイス。ついつい調子に乗って飲んでしまい、店を出る頃には少しフワッとした感覚に。気づいたら酔っ払っているけれど、中身は薬草だから、きっとオッケー! と楽しい気持ちになって店をあとにしたのでした。
(取材・文◎石澤理香子)
●SHOP INFO

店名:やきとり 田吾作
住:東京都渋谷区恵比寿西1-1-3 恵比寿第一ビル
TEL:03-3461-2922
営:16:00~23:30、土日祝日16:30~23:00(各30分前L.O.)
休:不定休