羊肉を専門に扱うお店が続々と登場中な昨今ですが、その中で今回ご紹介したいのは、2018年5月に東京・市ヶ谷にオープンした和食店『焼き羊』です。和食で羊を扱うお店、実は非常に少ないんです。
そもそも、羊肉は日本料理の歴史の中に組み込まれてこなかった食肉です。文明開化で日本人が食肉に触れた際、日本に羊がいなかったこともあり、和食に羊肉を合わせる、という視点がなく、それゆえ羊肉を扱う和食の店がほとんど存在しないことにつながっています。
そんな中、満を持して登場したのが、和食なのに羊肉を提供するとうたう『焼き羊』。店名どおり、メニューもほとんどが羊だそうで、羊齧協会会長としては、期待が高まるばかり。ということで、某日、実際に食べに行ってきました。
メニューを開くと「ラムコロッケ」(650円)「ラムの生ハム」(850円)「ラムの卵とじ」(850円)「ラムの肉豆腐」(900円)……といった具合。圧倒的なラム料理の数にまず驚かされます。
そして、同時に心にわいたのが「ラムでやる必要があるのかな?」という疑問でした。例えば、牛や豚を使って美味しい料理を、無理をして羊料理にする必要はない、と筆者は考えているからです。しかし、その疑問はまったくの杞憂だったことがすぐにわかりました。
欲望の命ずるままに料理を頼んでみましたが、これがまた、和のテイストにぴったり合っているのです。牛・豚・鶏の代用ではなく、しっかりと「羊肉だからこの味になった」と主張する料理ばかりで、箸が止まらなくなってしまいました。
筆者が特に「面白い」と感じたのは、まるで鰻屋のように粉山椒がテーブルに用意してあるところでしょうか。
例えば、羊肉の串焼きには、クミンや唐辛子など強い香辛料をかける場合が多いのですが、こちらのお店ではシンプルに塩焼き。塩だけでも十分美味しいのですが、そこにアクセントとして粉山椒を振りかけると、それが驚くほど羊に合うのです。和のスパイスである山椒が、まさか羊に合うとは想像もしていませんでした。
そうそう、串焼きにはホースラディッシュが添えられていたのですが、実際、北海道ではジンギスカンにホースラディッシュを添えることがあります。羊肉の食べ方を、とてもよく研究されてるなあ、と感心しました。
羊は香りが強いので、香辛料と合わせることが多いのですが、それを薄味で素材の味を活かす和食に使うには、厳選された素材と、羊の香りを活かす匠の技が必要です。しかも、香りが強いオージーラムをこだわりで使っているところがさらにスゴい。
『焼き羊』の羊料理の全メニューを制覇するまで通いつめねば…という気にさせてくれました。日本酒から焼酎、ワインまで、お酒の種類もかなり豊富なので、左党の方にも満足できる名店です。ぜひ行ってみてください。
(撮影:菊池一弘)
●SHOP INFO
店名:焼き羊
所在地:東京都千代田区九段南4-4-7 中川ビル B1F
TEL:03-6261-3390
営:ランチ11:30~14:00(火~金)
ディナー17:30~23:00(22:00L.O)
休:土・日・祝
●プロフィール
菊池一弘
羊齧協会主席。羊肉を常食する岩手県遠野市出身の父の影響で、羊肉料理に親しんで育つ。北京留学中に現地の味に触れ、その魅力に開眼し羊好きの消費 者団体「羊齧協会」を結成。本業は、イベントの開催・運営、場作りのプロとしてのアドバイザー業務などに携わっている。最近は四川フェスの運営団体麻辣連盟の幹事長も兼務。
http://hitujikajiri.com/