遠く離れた土地に共通する風土と誇り
「仙台空港に降り立った瞬間、佐賀に似ていると思いました。山があって、海があって、平野があって、食材の多様性がある」
そう語るのは、地元・佐賀の寺田シェフ。長崎で生まれ、フランス各地で修業を積んだ寺田シェフは、初訪問の仙台をそう評しました。


一方の松石シェフは、山形県出身。仙台のホテルで中国料理の腕を磨いたのち、独立して『松石』を開業。今回訪れた佐賀を「第二の故郷になった気持ち」と話します。
そんな出自もまったく異なる二人ですが、実は同じ料理学校出身であり、重ねてきたキャリアや夫婦二人で店を切り盛りする現状など、さまざまな共通点がありました。その「遠く離れた似た者同士」のような関係性が、今回のコースの統一感の一因かもしれません。さらに、寺田久枝さんと松石晶子さんという両女将が山形県産米と佐賀県産の海苔で握ったおにぎりも、ゲストをあたたかく包んだ一幕。それはまさに「食の縁結び」を象徴するような光景でした。

器が導いた、料理の覚醒
「普段から古伊万里や有田焼は使っていますが、今回はそのレベルが違った。料理を盛りつけた瞬間に器が輝き出すような感覚でした」
松石シェフがこう振り返るように、器の力もまたこのイベントの主役のひとつ。十四代今泉今右衛門、中里太郎右衛門陶房、井上萬二窯、そして気鋭の作家・徳島あやらによる器の数々が、料理にもう一段階の深みを与えました。

イベント終盤、会場はまるでひとつの物語を聞き迎えたかのような空気に包まれていました。ライブ感満点の調理、料理人たちのやりとり、器の存在感、そして料理を囲んだ人々の笑顔——どれもがこの日限りの奇跡。
「普段にはないプレッシャーもありましたが、新しい刺激をたくさん得られました」と語る寺田シェフに対し、「今回のイベントで、料理人としての殻を破ったような感覚がありました」と松石シェフ。
料理も器も人も、使われてこそ本領を発揮する。そんなことを改めて感じさせてくれた『USEUM SAGA』。佐賀と宮城、約1500kmの距離を超えて繋がったシェフたちの想いが、これからの佐賀の食を、もっと面白くしてくれそうです。

