大正時代創業の洋食店『好成軒』の「とろとろ玉子のオムライス」

最後にご紹介するのは、大正8年(1919年)創業の、東京・日本橋にある洋食店『好成軒』の「オムライス」です。

「とろとろ玉子のオムライス」という名称どおり、先に紹介した3軒のオムライスとはまったくタイプの異なるオムライスです。そう、この『好成軒』は、薄焼き玉子タイプではないのです。

ではどんなオムライスなのかといえば、写真をご覧ください。たっぷりのデミグラスソースの海にオムライスがたゆたうようなオムライス。そう、オムライスなのにオムレツ型ですらありません。原型がわからないほどひたすらに卵トロトロなんです。
スプーンを入れてみると、薄焼き卵を割るような力はまったく不要。何の反発もなくスプーンが皿の底に到着。とろとろの卵と共に、薄めのケチャップ味のチキンライスがいとも簡単にすくえます。
ひと口食べてみると、卵がふんわり、ごはん一粒ひと粒を包むかのごとくまとわりついてきます。そして追随する濃厚なデミグラスソースのコク。その後に続く旨み……。深い、深すぎる!

卵とチキンライス、そしてデミグラスソースが三位一体となり、なめらかな口触り、まろやかな卵の味、そしてソースの深いコクを生み出しています。美味しいうえに流し込むように食べられるので、スプーンが止まりません。あっという間にとろとろオムライスはお腹の中に消えていくでしょう。なんという儚さ。でも、美味しさの余韻は、しっかり心に残ります。
●DATA
「好成軒」
住:東京都中央区日本橋室町1-13-4
(撮影・文◎土原亜子)