7000円近くする充実のセットがランチなら半額ほどで味わえる!

訪れたのはランチタイム。近くにお勤めのビジネスマン、買い物客、海外からの観光客…と実に幅広い層のお客さんで店内はにぎわっていました。
ランチはとてもおトク! にぎりのセットは税込1980円(7貫)、2530円(8貫)、3080円(10貫)、3630円(11貫)というラインナップ。中トロが入っているのは2530円のセットから。お好みだと7000円近くになるようなセットがこの価格で味わえるなんてうれしいですよね。
今回は、10貫のセットを注文。待つこと数分でやってきました! 江戸前なので煮切り醤油が薄くひと塗りされているので、そのままいただくことができます。

さて、噂の中トロをいざパクリ。ほどよく乗った脂、マグロの旨味、歯ごたえ。いやー、旨い! すべてのネタを毎朝仕入れているとのことで、ものすごく新鮮、かつバランスの取れた美味しさです。赤身もコクと旨味が凝縮されていて、筆者の好みにドンピシャでした。

五代目の吉野正敏さんに仕入れのこだわりを聞いてみたところ、「ただ味を追求するだけじゃなく、美味しいものをたくさんの方に味わってもらうために良心的な価格で納得のいくネタを厳選しています」とのこと。いわく「倍の値段になっても倍美味しいってわけじゃないからね」と。確かにその通り!
粕酢と塩だけ、スッキリしたシャリがネタの旨さを際立たせる

玉子も特徴的です。薄い玉子が、シャリを包むように巻かれています。ちょっと甘めでふわっとした食感。口中でシャリと一体化して、何ともいえない美味しさ。最高です。
ちなみに、吉野鮨のシャリは粕酢(赤酢)と塩のみ。創業以来ずっと変わっていない伝統のつくり方です。甘味を加えない分、スッキリしていてネタの邪魔をしません。「これぞ江戸前寿司!」という感じの一体感があります。
近年、流行ということもあり粕酢を使うお寿司屋さんが増えてきていますが、吉野鮨は創業時からずっとこの味を守り続けています。
「粕酢は、江戸時代後半、造り酒屋さんだったミツカンさんが酒粕を利用してつくったのがはじまりで、『安くてコクがある』と、当時の屋台のお寿司屋さんが一斉に飛びついたんです。ただ、黒っぽい澱(おり)みたいなものが出るので嫌う高級なお寿司屋さんやお料理屋さんもあったみたいですね。でも、うちは創業時から変わらず粕酢と塩だけです」と五代目。

だからといって「これがホンモノの江戸前寿司だ!」なんて言うつもりはない、と吉野さん。「甘味が入っているシャリもアリです。みんな同じじゃ面白くない。いろんなお寿司屋さんがあっていいと思いますよ」とのこと。江戸っ子らしい気風の良さを感じます。
「流行りに乗らない」、自然の流れで変化していく

シャリ以外に、創業時から今まで変わってないものは何でしょうか。
「流行りに乗ることはしないので、酢飯も含めて味付けや調理法など創業時のままのものがたくさんありますが、変えていないつもりでも、誰も気づかないようなわずかな違いが長年かけて蓄積して変化しているところはあるかもしれない。何でもそういうものだと思います」

箸袋には、吉野さんのおじいさんである三代目が詠んだ歌が書かれています。「江戸に生まれて 東京で育ち いまじゃ日本をにぎりすし」。江戸で生まれ育った寿司が今は日本中どこでも食べられるという意味です。
「晩年、三代目は『今は日本じゃなくて、もう世界だよな』と言っていましたが」と笑う吉野さん。五代にわたり、長年愛されて続けてきた老舗ならではの言葉です。今はなき日本橋魚河岸や当時にぎわっていた屋台に思いを馳せながら味わってみたいお寿司です。
(取材・文◎松みのり)