千葉在住ライターが、東京の友人に自慢したい、“ピーナッツだけじゃない”県内のおいしいものを気ままに紹介。房総を拠点にした「食」にまつわるあらゆるものを見つめた、飲んで・食べて・知る千葉の風土&food記です。
生活と商いの両立を目指して出した“睦沢町への移転”という答え。
(千葉県長生郡睦沢町)

以前は、同じ千葉県内の野田市に店を構え、多くのカフェ愛好家から支持を集めていた「furacoco」。築50年の古民家でいただくワンプレートランチが評判で、2015年に閉店した際は惜しむ声がたくさん聞かれました。それから2年──あの人気店が再始動するという情報を聞きつけ、早速お邪魔してきました。
新たな店の場所は、県中央部にほど近い睦沢町(むつざわまち)。今年から、休耕地を利用してオリーブ栽培が始まった話題の町でもあります。
店主の細山(さやま)克也さん・かおりさん夫妻は、ともに栃木・益子で働いていた時に出会い結婚。いつかは細山さんの生まれ故郷である千葉に戻り、自分たちの店を持ちたいと考えていたそうです。
最初に野田で店を始めたのは、たまたま気に入った物件が見つかったから。しかし、初めての店舗経営で直面する現実と、理想とする店の形にとらわれすぎ、いつしか自分で決めたルールに苦しむようになったといいます。
「視野が狭くなっていたんだと思います。例えば、“うちの料理は必ずワンプレートにしなくちゃいけない”と思い込んで、料理に対するモチベーションが下がってしまったりとか。今考えると、独りよがりでした」と細山さん。「それに、店のことが中心になりすぎて、自分たちの生活をおろそかにしていました。このままではいけないと思い、一度リセットしようと考えたんです」
原点に戻って考えたのが、“自然豊かな場所でくつろげる店をやりたい”という気持ち。南房総やいすみなどの物件も見て回りましたが、偶然通りかかった睦沢ののどかな景色に心惹かれ、最終的に今の場所に決めました。
「睦沢は、自然に囲まれているけれど、山が深過ぎないし、車があれば外房線の茂原駅や上総一ノ宮駅へアクセスできるし、住みやすいところなんですよ」とかおりさん。
睦沢に移り住む直前には、かおりさんのお腹に新たな命が宿っていることも判明。その時のことを、二人は感慨深く振り返ります。
「今度のお店は、子供にとっては故郷になる場所。わが子のためにも、この土地できちんと生活をし、睦沢の町に溶け込んだ“地域の店”にしていきたいと思いました」
そう思えるようになったのも、試行錯誤した野田時代の経験があればこそ。再スタートを切った二人の店は、迷いが吹っ切れたことを感じさせる、風通しのいい空間でした。


