「油淋鶏」のソースが簡単にできた理由

肉の下味をつける
主人:油淋鶏の美味しさは、食材である鶏モモ肉の唐揚げのカリッとした揚げ具合と、ソースの美味しさにある。
ユースケ:……??
主人:俺の理想はだな。まず、唐揚げは、今はなき板橋の名物弁当屋『大黒屋』の唐揚げなんだ。口の中を切りそうなほどカリッカリ、パリッパリで、じゅわりと肉汁があふれてくる。あと、東大駒場前にある定食屋『菱田屋』の「油淋鶏」。こちらも巨大なから揚げに、たっぷりのネギや生姜、ニンニクが入った香り高いソースで、食欲をそそる味なんだ。
ユースケ:そもそも「ユーリンチ」って、なんすか? 英語かな?
主人:超有名な中華料理だ!(怒) とにかく、お前は、鶏モモ肉をフォークでブスブスと刺してくれ。そうすると肉が柔らかく仕上がるから。それが終わったら、食べやすいサイズに切って、このビニール袋に入れて、「肉の下味の調味料」(塩・こしょう、片栗粉、醤油、酒、ごま油、生卵)と一緒によーく揉みこむんだぞ。
ユースケ:ブスを、ムニムニと揉めばいいんですね。
主人:……
油淋鶏ソース作り

主人:ビニール袋の鶏モモ肉は、そのまま味が染み込むように2~3時間置いておく。その間に、油淋鶏のソースを作るぞ。お前は、ネギ、生姜、ニンニクをみじん切りにしてくれ。
ユースケ:え~、メンドくさいっすね。指も臭くなりそうだし。
主人:料理の基本だ! みじん切りくらいやっとけ。俺は、肝となるソース作りをする。「タレの調味料」(酒、酢、砂糖、白ゴマ)を鍋で煮立たせて、と。
ユースケ:ぶんぶん。ぶんぶん。
主人:おい、ユースケ、何をしてるんだ!
ユースケ:はい? 「ぶんぶんチョッパー」です。知らないんすか? うちの母ちゃんが使ってます。この容器にみじん切りしたい野菜を入れて、この紐をぶんぶん5回くらい引けば、あっという間にこっぱみじん切りっすよ。手も臭くならないし。
主人:……す、すごいな……。そいつがあったらお前、いらないじゃないか。
ユースケ:いやいや、あくまでも時短ですから。他にすることは?
主人:お、おう。確かに時間に余裕ができるな。

鶏肉を揚げる

主人:いよいよ鶏肉を揚げていくぞ。油の温度を160度にするんだ。
ユースケ:細かいっすね。
主人:唐揚げをカリッとふわっと揚げるには2度揚げがいいんだ。まずは低温の160度で5~6分、次にと高温170度で1~2分。バットに取り出して3分。余熱で、中にじんわり火が通っていくだよ。
ユースケ:なんか科学の授業みたいですね。そんなに微妙なんですか。
主人:揚げ粉は小麦粉7の片栗粉3の割合だ。料理は、そうした細かい分量と、時間と、作業の積み重ねで味の良し悪しが決まるんだよ。

ソースをかけながら食べる油淋鶏
主人:よし、唐揚げが上がったら、お皿に載せて。横にソースを添えてお客さんに出すんだ。俺の理想の「油淋鶏」は、最初から鶏肉にソースをかけて出すのではなく、お客さん自身がかけるスタイルにしたい。
ユースケ:やってみますね。お~。揚げたての鶏肉にタレがかかるジュワ~ッという音とソースの香ばしさがたまらないですね。ソースの量も自分で調節できるし。何より、このカリッと具合、最高だし、肉汁も溢れてきますよ。
主人:だろ。
ユースケ:なるほど、これがユーリンチなんだ。今日、お客さんがたくさん来てくれるといいっすね~。

●『妄想食堂』の「油淋鶏」の材料(多めの2人分)
・鶏モモ肉2枚
「タレの香味野菜」
ネギ 1本/生姜 半片/ニンニク 5粒
「肉の下味の調味料」
醤油 大さじ3/酒 大さじ2/生卵 1個/塩・こしょう 適量/ごま油 大さじ1/片栗粉 大さじ1
「タレの調味料」
醤油 大さじ3/酒 大さじ2/酢 大さじ1/砂糖 大さじ2/白ごま 適宜
「揚げ粉」
小麦粉7、片栗粉3を混ぜたもの
(撮影・レシピ◎尾仲好太、編集・文◎土原亜子 イラスト◎うえむらのぶこ)
●プロフィール

尾仲好太(おなか・すいた)
『妄想食堂』の主人。知人からは超人の味覚、嗅覚、そして胃袋を持つと噂の一般人。旨い料理を食べる、作ることに日夜、妄想を抱き、実際に店を食べ歩き、家で再現する日々を送る。得意料理は、肉料理。