かしこい道具さえあれば、腕はなくともおのずと料理のレベルはアップする。道具で楽しむ・道具でラクする料理エディター、Amiyumiの“道楽料理”。
すべてのゆでたまご難民たちに「エッグタイマー」を!
あるテレビドラマにこんなシーンがあった。ラブコメディもので、主人公のカップルは、同棲を始めたばかり。朝ごはんを甲斐甲斐しくつくる女。彼女を眩しそうに見つめながら男は食卓に着く。が、次の瞬間、男の顔がゆがむ。「ん、どうしたの?」と女。「いや、なんでもない」と弱々しく笑う男。
同棲しているとはいえ、つきあって日が浅く、まだ相手に過剰に気をつかってしまう2人。でも、そのとき思ったことを言わなかったばかりに、彼は日々ストレスをためこみ、ある日ついに、女との同棲解消を切り出す。男が食卓で言えなかったこと。それは、
「僕は、目玉焼きは固焼きじゃなくて半熟が好きなんだ」の一言だった。
加熱の度合いや調理法に、人それぞれ、好みがはっきり分かれるのがたまご料理である。このドラマのように、たまご料理のすれ違いが対人関係に影響を及ぼすこともあり得る。しかし、対人関係同様、なかなか思い通りにならないのもまた、たまご料理である。
特に、最もシンプルなゆでたまごは、他人の心の内が読めないように、殻の中身が見えないだけに難しい。ちなみに私は、ゆでたまごは半熟派だ。だがいままで作ったゆでたまごは、ゆで過ぎたり、ゆで足りなかったりと、パーフェクトではなかった。そう、いまになって自分のゆでたまご作りに基準がないことに気づいたのだ。そこで初心に戻り、ネットで“半熟たまごの作り方”を検索してみると、Q&Aサイトには私と同じような迷える子羊たちがいっぱい。答える側も百人いたら百通り。みんな主張が違うではないか。世の中には、ゆでたまご難民がウヨウヨしていたのである。
そんな中、私は早くも救世主にたどりつく。いつもの道具だよりである。それが「エッグタイマー」だ。使い方は至って簡単で、たまごと一緒にゆでるだけ。するとあら不思議。徐々にエッグタイマーの色が変わり、メモリに沿って進んでいく。メモリのSOFTでたまごを引き上げれば白身は固く黄身がトロトロの状態、MEDIUMなら半熟、HARDなら固ゆでという具合だ。このサインさえ見過ごさなければ、今後、私のゆでたまご作りにおいて想定外の結果はない。
さて、冒頭のドラマに話を戻そう。その後の男と女はどうなったのか。男からの突然の同棲解消宣告。女は男に理由を問い詰める。するとその理由がたまごの焼き方にあったと知るのである。そして女はこういった。「本当は私も半熟派だったの。いつも何も言われなかったから、あなたは固焼き派なのかと思って…」。こうして、2人の誤解は解け、もとの殻、じゃないサヤにおさまったとさ、めでたしめでたし。
たまごの形状によく似た「エッグタイマー」。ゆでる前のたまごが冷蔵であろうと常温であろうと、水からゆでようと沸騰してからゆでようと、火力が弱かろうと強かろうと関係はない。たまごと一緒にゆでさえすればいいのである。ゆでると色が黒く変わってくる。写真はメモリのMEDIUMを差しているのでたまごは半熟である。