食べてはならぬバカの食い物⁉ 中国の8D魔幻都市・重慶で出会った謎フルーツを食べてみた

食べてはならぬバカの食い物⁉ 中国の8D魔幻都市・重慶で出会った謎フルーツを食べてみた
食楽web

●中国・重慶の町中で売られている不思議なフルーツ。その正体とは?

「それ、バカの食べる梅」

 某フードフェスで交流した中国人から、そんなコメントが飛び出しました。中国・重慶旅行で食べた、フルーツの写真を見せたときのことです。最近では「バカの食い物」といえば、健康を顧みないカロリー爆弾的な料理をそう呼ぶ傾向がありますが、さてこれは……?

 重慶は、中国西南部の山岳地帯に位置する都市。長江(ちょうこう)と嘉陵江(かりょうこう)という2本の大河の交流点であり、川が大地を削り谷を作っていることから、平地が少ない地形になっているのが特徴です。

 坂道や階段で立体的に構成された街の立体迷路状態から、「軍艦島」や「九龍城」に例えられたり、「8D魔幻都市」と呼ぶ人もいたり。全面的にパワフルかつカオスな印象の街でした。

 日本で最も詳しく重慶を解説している書籍『重慶マニア』(近堂彰一著)によると、かつては「成都にいくついで」に寄るくらいの存在だったものの、重慶を舞台にした映画の公開やTIKTOKなどの動画投稿アプリによりイメージが一新され、さらに交通機関の発達にも後押しされ、中国国内の旅行先として人気が急上昇した、とあります。

長江と嘉陵江を進む遊覧船で、夜景を楽しむ重慶観光定番の楽しみ。崖沿いに作られた建築物の過激なライトアップは、重慶のパワフルさの象徴
長江と嘉陵江を進む遊覧船で、夜景を楽しむ重慶観光定番の楽しみ。崖沿いに作られた建築物の過激なライトアップは、重慶のパワフルさの象徴

 重慶は工業都市として発展してきたこともあり、険しい地形の都市はとにかくエネルギッシュ。観光で歩き回ると、バリアフリーとは真逆の、足腰使ってナンボという気概が伝わってきました。

 火鍋や小麺といった定番激辛料理も相まって、過酷さを楽しむ旅といってもいいくらい。休憩のたびにスマホの歩数計を眺めてはほくそえむ達成感は、インドア派な自分の中で新たな扉が開いた感覚でした。

重慶にはパンダに会える動物園や、夜景クルーズ、三国志の史跡、火鍋ストリートなどの観光スポットもあるが、真の魅力は街の構造! 過酷な階段の横には、有料エレベーターが設置されている
重慶にはパンダに会える動物園や、夜景クルーズ、三国志の史跡、火鍋ストリートなどの観光スポットもあるが、真の魅力は街の構造! 過酷な階段の横には、有料エレベーターが設置されている

 さて冒頭、「バカが食う梅」呼ばわりされたフルーツとの出会いは、そんな街中の階段でのことでした。段差だらけで車輪は役にたたないため(自転車やベビーカーもあまり見かけない)、多くの果物売りは、天秤棒にぶら下げた籠で移動するスタイルでした。

 そのひとつに、ひときわ目を引くドぎついカラーの何かが……! 今まで見たことのない、すごい色だな!

ヒーヒー言いながら階段を上り下りしている間も、いろいろなフルーツに出会う[食楽web]
ヒーヒー言いながら階段を上り下りしている間も、いろいろなフルーツに出会う[食楽web]

 小動物ならヤドクガエルやモルフォチョウ、フルーツならマーブルベリー(ポリア・コンデンサータ)など、自然界にも激しい色は存在します。しかしこれは、それらとは違う、何とも言えない人工的な雰囲気です。

 一緒に各地を回ってきた旅行メンバーである、重慶で働く日本人N氏に聞いてみました。あれは何? 

「体に悪いから、職場では食うなって言われてます(笑)!」

 えー、なんか怖い。えー、でも食品なんですよね……? 困惑していると、冒頭の『重慶マニア』著者である近堂さんが「金西梅(ジンシーメイ)」だと教えてくれます。

「何の果物かは忘れた!」というのでネット検索してみたところ「スモモの皮を剥いて種を抜き、着色料で色をつけたもの」と出てきました。「フェイクフルーツ」と呼ぶケースもあるよう。つまり「体に悪い」というのは、加工品は体に悪い、くらいのニュアンスなのでしょう。少量食べる程度なら問題ないだろうと、早速買ってみました。

正直1個でいいのだがそうもいかないので、適当に詰めてもらう
正直1個でいいのだがそうもいかないので、適当に詰めてもらう

 街中で、次に出会った金西梅に走り寄り、いよいよ食べるぞ~とウキウキ購入。その場で表面を軽くふき、歩きながらかじってみました。

 おお、思ってたんと違う。完熟しきっていない梨のような? ガリガリッとした噛み応え。そしてシロップ的な甘みのなかに、わずかな酸味。歯ざわりはまるで違うものの、これは完全にレトロなクリームソーダやプリンのトッピングでおなじみの、シロップ漬けのサクランボ(ドレンチェリー)の仲間だな。

 いわば夜市で観光客用に売られている、ビジュ優先の食用昆虫のようなもの。味は二の次で、映え重視のおやつなのでしょう。生で食べられる美味しさはなくても、こうして派手に加工すれば使い道があるうえ、保存がきくというメリットがありそうです。

 ちなみに、一緒に食べた旅行メンバーO氏は「半年前に来て食べたときも、二度と食わん!と思ったのにすっかり忘れていた」と話していました。おいしくはないが、記憶に刻まれるほどまずくもない、という程度の味であることが伝わるでしょうか。

吊りはかりでグラム売りされる果物。ちなみに露店でもほとんどのものがQRコード決済だった
吊りはかりでグラム売りされる果物。ちなみに露店でもほとんどのものがQRコード決済だった

 食ってはならぬ。バカが食べる梅。さんざんな言われようですが、通年、多種多様なおいしいフルーツが手に入る重慶で、わざわざ見栄えだけのフルーツを食べるなんて! という意味であることを体感しました。

 しかし観光客向けのはしゃいだ食べ物を味わうのも、旅の醍醐味。我々は旅客なので、それでいいのだ。

おまけ:その他のぶっ飛び重慶フード

これまた現地の人に「バカの食い物」と言われそうな麻辣アイス。冬に訪れた時の話なので、季節外れでアイスは販売しておらず未食。これも当然、現地の人が日常的に食べるものではない
これまた現地の人に「バカの食い物」と言われそうな麻辣アイス。冬に訪れた時の話なので、季節外れでアイスは販売しておらず未食。これも当然、現地の人が日常的に食べるものではない

 もっとどうかしている観光客向けの食べ物は、まだまだたくさんありました。重慶は何でもかんでも「麻辣」味なのですが、ソフトクリームもその洗礼を受けている!

こちらは白酒アイス(!)で飲める、麻辣カフェラテ。いろいろと情報が渋滞しています
こちらは白酒アイス(!)で飲める、麻辣カフェラテ。いろいろと情報が渋滞しています

 アイス屋のカフェオレは、「麻」か「辣」を振りかける2種。スパイスを加えて飲むチャイのように、違和感なし。かなり好みの味でした。

●著者プロフィール

ムシモアゼルギリコ
フリーライター。記事の執筆のほか、TV、ラジオ、雑誌、トークライブ等で昆虫食の魅力を広めている。昆虫食だけでなく、一般の食卓では見かけないような食材を追うのが好き。著書に『びっくり! たのしい! おいしい! 昆虫食のせかい むしくいノート』(カンゼン)、『スーパーフード! 昆虫食最強ナビ』 (タツミムック) 。