
●角打ちでふらりと一杯。東京・麹町で300年の看板を守る老舗酒店を仕事帰りのサードプレイスに。
徳川吉宗が将軍に就任した享保元年(1716年)に創業。300年以上の歴史を持つ老舗酒店『麹町いづみや』は、白を基調とした洗練された雰囲気の角打ちとして愛されています。
長年アパレル業界に身を置いてきた花島豊マスターのセンスとこだわりが息づく空間は、女性も1人で気負わずに立ち寄れる、心地良いサードプレイス。
東京メトロ麹町駅から徒歩3分、新宿通り沿いにあるこの店に夕方5時半にオレンジ色のあかりが灯れば、それが開店の合図です。いざその扉を開いてみましょう。
麹町の記憶を紡ぎ、受け継がれる酒屋の灯り

麹町という町名は、江戸時代に麹を扱う店が軒を連ねていたことに由来するといわれています(諸説あり)。その風景を想像するに、『麹町いづみや』のような、この地に代々続く酒屋があるのは自然なことでしょう。
現在の麹町いづみやは、約70年前に花島マスターのお父様が看板を譲り受けて以来、移転を経ながら、地域に根ざした酒屋として歩み続けてきました。

扱う酒類のメインは日本酒。季節ごとに仕込まれた多彩な銘柄が、手頃な価格で揃います。
「角打ち」の語源は諸説ありますが、江戸時代の酒屋で、量り売りの酒をその場で飲みたがる客に、計量用の四角い枡で飲ませたことに由来するという説も。
往時の、枡の角に口をつけて飲んだ習慣にならい、枡で一杯ずつ飲める酒と、量り売りの酒を提供するという、江戸の酒屋の2つのサービスを今に伝えるのが『麹町いづみや』なのです。

そのほか、生ビールや外国産のビールも取り扱っていますが、焼酎類は泡盛のみというのもマスターの美学。
おつまみは乾き物や厳選された珍味、四谷で150年続く老舗『有明家』の佃煮など。調理を要するメニューは置かず、クイッと飲んで立ち去る、昔ながらの角打ちスタイルを貫きます。
ここでは長居や大声でのおしゃべりは野暮というもの。軽やかにシンプルな時間を楽しむ店です。

定期イベントも開催。使い分けて楽しむ、いづみやの粋
一方で定期的に開催されるイベントは賑やかさに満ちています。ミシュランのビブグルマンに輝く『鮨川』による出張寿司会は、特に注目度が高いイベントです。
普段は1人ないしは2人でサクッと、イベントでは美酒と美味をとことん堪能する――。この使い分けこそが、いづみやの粋な楽しみ方なのです。

余談ですが、同店は数年前まで『麹町いづみや しろ』という名称でした。酒販店兼角打ちとして営業していた本店がダーク系の色調で「くろ」と呼ばれていたことから、2号店を「しろ」と呼び分けていたのです。「くろ」の営業終了から数年経ちますが、常連客は親しみを込めて「しろ」と呼び続けます。
「しろ」こと現在の麹町いづみやは配達などの酒販業務は行わず、店頭販売と角打ち営業に専念。伝統とは、時代に合わせて形を変えながら守り続けるもの。その姿勢が、ここには受け継がれています。

伝統と現代が溶け合う空間で、仕事帰りにふらりと一杯。自分を慈しむリフレッシュタイムを、この心地良い空間で気軽に楽しみましょう。
●SHOP INFO
麹町いづみや
住:東京都千代田区麹町4丁目4−6
TEL:03-3261-9067
営:17:30〜21:00
休:土・日・祝
https://www.facebook.com/kojimachi.izumiya
●著者プロフィール
玉城久美子(たまき くみこ)
1級フードアナリスト。沖縄県那覇市出身。「人と地域を食でつなぎ新たな価値を生む」をテーマに、イベント企画や販路拡大などで自治体・企業のマーケティング支援に携わるほか、執筆・レシピ開発・講演などで食の情報を発信している。
https://note.com/kumy






