
見渡す限りのぶどう畑、甘酸っぱい香りが漂ういちごのハウス、たわわに実った桃、軒先に吊るされる干し柿。一年中いつ訪れても、フルーツの気配が漂う山梨県。そう、山梨は日本でも有数の「フルーツ王国」です。
そんな山梨県でこのほど、県産フルーツを使ったスイーツのコンテストが開催されることとなりました。その名も「やまなしスイーツコンテスト2024」。果たしてどのようなスイーツがノミネートされ、どんなスイーツがグランプリに輝くのか?
本記事の公開は、一次審査が終了し、最終審査を迎える前。
コンテスト開催の背景と、今回のコンテストに応募したパティシエのコンテストにかける思いを、予断なく紐解いてみましょう。
山梨県初の「スイーツコンテスト」を開催!

ぶどう、桃、すももの収穫量は日本一。ほかにいちご、りんご、柿、ブルーベリーなど、さまざまなフルーツが採れることから「フルーツ王国」と呼ばれる山梨県。豊富なぶどうを原料にしたワインの産地としても知られ、また県を挙げて若手パティシエ育成に励むなどの取り組みも行われています。
そんな山梨県ですが、県内の人にとってはフルーツが身近すぎて、その魅力に気が付きにくいのも事実。また県外の人にとっては出荷量の多さから「山梨県産」を強く意識せぬまま口にしてしまうことも多いでしょう。
そこで、山梨の彩り豊かな“フルーツ”や、それを使用した“スイーツの魅力”を多くの人に知ってもらうこと、さらにフルーツの魅力を伝える“パティシエ育成”のため、今回のコンテストの開催に至ったのです。コンテストは生菓子スイーツ部門、焼き菓子スイーツ部門、ワインに合うスイーツ部門の3部門。2025年2月12日の一次審査を経て、3部門合計19点のスイーツが最終審査に進みました。
一年中、いつ訪れても“旬のフルーツ”と出合える

年間通して多彩なフルーツが実る山梨県。いつ訪れても旬のフルーツが食べ頃を迎えています。冬に旬を迎えるのは、いちご。県内のさまざまなカフェやレストランでも、山梨県産いちごを使ったスイーツが楽しめます。

冬はいちごスイーツのオンパレード!
たとえば「CASA FRUTTA」は、甲府で4代続く果樹園が営むパフェの店。自慢のパフェは、農家直送の新鮮なフルーツにセミドライ、コンフィチュール、ジェラートなど7種の加工を加え、フルーツの持ち味を味わい尽くすことができます。冬のおすすめは、、一切の加温をせずにゆっくりと生育することで味わいを増した「寒熟いちご」のパフェ。贅沢な七変化で、いちごを存分に満喫できる一品です。
老舗酒蔵「養老酒造」の敷地内、築200年の古民家でくつろげる「Cafe 槽」でも、いちごのパフェが楽しめます。酒蔵の直営らしく、日本酒のムースやアイス、白ワインのジュレなどを合わせた、ちょっと大人のパフェ。ただしアルコールはしっかりと飛ばしてあるため、未成年でもドライバーでも安心して注文可能です。朝に採れたばかりの新鮮ないちごを贅沢に使ったパフェとともに、ゆったりとした時間が過ごせると評判です。
いちご狩りやフルーツ専門店で旬をお持ち帰り

もちろん県内にはフルーツ専門店やギフトショップ、直売所、そして果実狩りができる施設もいろいろ。とくにいちごの時期には、完熟いちごの食べ比べができる農園が人気を集めています。ハウスの中で真っ赤に色づいたいちごを摘んで、そのままぱくり。パフェやケーキとはまた違う、ジューシーでフレッシュなおいしさを、思う存分楽しむことができます。
コンテスト出場者にインタビュー! 都内のパティシエが山梨のフルーツに魅了された理由

そんな山梨県のフルーツに魅了された、ひとりの人物がいます。その人物は東京都板橋区にある洋菓子店「Petit Sapin」のパティシエ・成田博史さん。今回のコンテストにも、生菓子部門と焼き菓子部門に、渾身のスイーツでエントリー。そんな成田さんにコンテストにかける意気込みを伺ってみました。

成田さんは東京理科大学で物理学を学んだという理系男子。手に職をつけたい、とパティシエを志し、有名洋菓子店10年、さらにフランス料理の研鑽も積んでから独立したという経歴の持ち主です。
「お菓子づくりは実験のように1g単位でレシピ通りに組み立てる作業。ですがフルーツを使うお菓子の場合は相手が自然ですから、水分量や糖度の違いがあります。そこで臨機応変に対応するフランス料理の経験が活きてきます」
そう話す成田さん。自身の経験の集大成としてのお菓子づくりにより、精緻な計算と感性が両立される唯一無二のスイーツが生まれるのです。

食材の産地にも度々、足を運ぶ成田さん。「最初は気分転換くらいの気持ちでしたが、いまではお菓子づくりに必要不可欠」といいます。それは生産者に会い、その熱意や苦労を聞くことでお菓子のイメージ、そしてストーリーが浮かぶから。
「山梨はアーティスト的な、こだわりの強い生産者が多い。その向き合い方から、お菓子のイメージを組み立てていきます」

日頃から山梨のフルーツを使ったスイーツを作っている成田さん。SNSで今回のコンテストを知り、すぐさま応募を決断したのだそう。
そんな成田さんが今回選んだフルーツは、幻といわれるほど希少なぶどう品種「アジロンダック(通称アジロン)」と、甲州市名産の干し柿である「枯露柿」(大きめの品種の柿を乾燥させた干し柿)です。
「濃厚で味わい豊か」というアジロンはピューレにして生菓子に、「まるで天然のパート・ド・フリュイ」という枯露柿は焼き菓子に。それぞれを主役にしたスイーツづくりがはじまりました。

生菓子部門の応募作は「タルトアジロン」

生菓子は「アジロンのおいしさを、ひとつの生菓子に凝縮したい」との思いが起点。ピューレ、ゼリー、ムースにして組み合わせ、味わいの奥行きを演出しました。下にはカスタードとアーモンドクリームをあわせた軽やかなクレームフランジパーヌ。口に入れた際にすべての層が混ざり合い、アジロンのおいしさが広がるように計算されています。名前はシンプルに「タルトアジロン」と名付けました。
焼き菓子部門は「枯露柿をさらに美味しく味わうチョコパイ」

焼き菓子には山梨「宝桃園」の枯露柿を使っています。
「そのまま食べても完成された味」というこの干し柿を、さらにおいしく食べるために試行錯誤を重ねました。枯露柿の濃密な味わいを引き立てるためにチョコレートをあわせ、その強さに負けないようフランス産バターをたっぷり使ったパイ生地でサンド。「枯露柿をさらに美味しく味わうチョコパイ」と名付けた一品です。

寒暖差があり、日照量も十分で、適度な雨が降る山梨。恵まれた環境ですが、もちろん地元生産者はさまざまな苦労を乗り越え、フルーツと向き合っています。成田さんの思いもそこに向かいます。
「コンテストを通してお世話になっている生産者に少しでも貢献したい」、そう話した成田さん。
取材時は一次審査前でしたが、後日の発表によると成田さんの作品はどちらも一次審査を突破! 待ち遠しい最終審査は、2025年3月8日に行われます。

●DATA
やまなしスイーツコンテスト
https://www.porta-y.jp/feature/sweets-contest
ハイクオリティ山梨 若手パティシエ育成プログラム
https://hq.pref.yamanashi.jp/article/a02734/

Petit Sapin
住:東京都板橋区南常盤台2-21-3
営:11:00〜19:00
休:月曜、第2、第4火曜
CASA FRUTTA
住:山梨県甲府市蓬沢1-16-5
営:11:00〜15:00
休:土曜のみ営業
Cafe 槽
住:山梨県山梨市北567 養老酒造1F
営:11:30〜17:00
休:月曜