ストーブから調理機器へ。画期的な「グラファイトトースター」が大ヒット

――アラジンはストーブから始まり、何世代にもわたって愛用されてきました。暖房器具から調理家電へと転換したのはなぜ?
高橋さん:私たちは石油暖房機をメインに開発しており、そこから電気ヒーターへも展開しながら、2012年頃には特許技術である「グラファイトヒータ」を搭載した電気ヒーターを発売しました。その性能は好評いただいたのですが、どうしても暖房機は年間通して生産販売することが難しいんですね。
――確かに、寒い季節だけの需要という印象がありますね。
高橋さん:なので、販売する商品の平準化が大きな課題だったのと同時に、省エネ対応のエアコンの普及により、石油暖房機の市場が縮小気味になりまして、年間通して作ることができる「調理機器」に目を付けました。

高橋さん:実は、私たちは大手メーカーのOEM(下請け)で前からオーブントースターを製造していたため、開発のノウハウがあったんです。そこで「グラファイトヒータ」を搭載したオーブントースターの開発を始めました。ただ、グラファイトヒータはとても性能がいい反面、少し高価なんですね。当時は4000円くらいでオーブントースターが買えた時代。それが、これを搭載すると2万円近くなってしまう。そんなに高いトースターが本当に売れるのか? というところでひと悶着ありました。
しかし、当時10万円超えの炊飯器が登場し、「毎日食べるお米がおいしく炊ける」と話題になっていたので、おいしさが認知されれば、商品が高くてもユーザーさんには分かっていただけるはず、性能が良くておいしかったら2万円で勝負できるのではないかと。そこで、パンのおいしさと早く焼き上げることにこだわったオーブントースターの開発を進めることになったんです。
「ムラなく早く、おいしい焼き上げ」を叶えたアラジントースター

――2015年に発売された「グラファイトトースター」は今までにないパンの焼き上がりが話題に。機能面でこだわった部分は?
高橋さん:いかに火力を上げるか、というところですね。トーストのおいしさを追求した結果、パンはより早く焼き上げれば、中に水分を保ちながら表面をしっかりカリッと焼けるということがわかりました。それを叶えたのが、0.2秒で1300℃まで温度を上げることができるグラファイトヒータです。ただ、電気ストーブに使っているヒーターは1200℃までしか上がらないので、調理機器に転用するには加熱不足。そこで性能を上げて1300℃まで上がるヒーターを新たに生み出しました。
――100℃上げるというのは、とても大変なことなんですね。
高橋さん:実際に開発をスタートしてから発売するまでに約2年かかり、そのうちの1年間はヒーターの改良に費やしました。例えば、鉄は、1100℃付近を超えると、軟化してしまいます。1000℃というのはその領域の温度です。その領域で1200℃から1300℃に上げつつ、天板が熱くなりにくい構造にするために技術力を投入しています。
レトロで可愛いピザ釜みたいなデザインが高評価

――レトロなデザインもかわいくておしゃれだと好評ですね。
高橋さん:正直、開発中はあのデザインにはすごく賛否がありまして……。
――そうなんですか!
高橋さん:上部がカーブしているので、試作品を展示会などに出すと「上に物が置けない形状というのはダメだろう」と言われ続けたんです。ですが、とても画期的で新しい商品ですし、高温でカリッと焼ける「ピザ釜」のイメージを持たせたかったので、私たちとしてはこのデザインで行きたいと半ば押し切る形で出しました。実は、窓の小ささにも賛否ありましたが、小窓から中をのぞく楽しさやレトロなデザインが相まって、最終的に「かわいらしい」と多くの方に評価をいただけました。


――パンの焼き上がりの確認はどのように行ったんですか?
高橋さん:なかなかアナログなんですよ(笑)。実際に焼いて食べないと分からないので、ヒーターの位置やパワーを変えるたびに焼いては食べ……を繰り返しました。反射板の形状を決める時は、1斤6枚切りのパンを1日大体10斤くらい食べ続けましたね。チューニング期間は半年くらい。焼いたパンのアレンジレシピは、かなり増えました(笑)。